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  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ6

    1.4 中国人に日本語を教授する

     目標分析票を見ながら、時間毎の教案を書いていく。書きながら、何を教えるのか(導入としての教材研究)、どのぐらい教えるのか(展開のための目標設定)、どのように教えるのか(整理のための授業計画)といったことを考えていく。教材の研究は、主に担当教師が行う作業である。クラスの始めに挨拶をして、ウォーミングアップで学習者の気持ちをほぐしていく。前回の質問事項にもこの段階で回答しておけばよい。復習をかねることにもなるためである。教材からの提示については、漢字系の学習者の場合、母国語と全く同じ単語または推測がきく語彙を使用して、定義文(ある語を定義する文のこと)を交えて話を進めるようにする。黒板に書くと、反応が違う。
     目標の設定では、スキルの獲得と応用を目指す。最初は教師の指示の下で日本語を表現する。その後、教師から離れて自由に日本語を作る作業に入る。ヒアリング指導の場合、言語的知識(音素識別力、語彙力、文法力)と思考活動(予測、記憶、判断、照合)の両面を発達させることが重要である。例えば、スキミング(全体の大意を捉えて、だいたいどんな事を言っているかを聞き取る)とかスキャニング(自分がほしい情報だけを求めて聞き、後は聞き流す)あるいはマッチング(ある特定の情報だけに限定して聞き取る方法で、スキャニングよりも限定的)といったヒアリングのタイプは、どちらかというと言語的知識を活用している。一方、ハイポセシス・テスティング(自分の予想が当たっているかどうか確かめながら聞く)は、どちらかと言えば、思考活動のトレーニングになる。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ5

     1課を4コマで指導するのであれば、内容目標の欄には4つの指導目標を書く。(例えば、敬語の意味を教える、敬語の形態を教える、敬語を使用する、敬語の応用を教える。)毎時間どこに重点をおいて指導するのか分かるように、認知面(知識理解、応用分析、評価、技能)と情意面(興味関心、意欲、満足、発展、協力)にその指導内容を書いていく。こうすると、一課の指導目標(教材の内容)と重点目標が一目で分かるようになる。
     最後に、教材を研究しながら考えた各課のパートの時間を入れていく。図1で言えば、敬語の1時間目は、内容目標が「敬語の意味を教える」となり、能力目標が知識・理解と興味・関心になる。そのために文型や例文を説明して、会話文の発音練習の時間を設定していく。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ4

    1.3 日本語の教授法計画

     外国語の教授法といっても、本稿では特に中国人に日本語を教授するケースを想定している。授業をしていて、漢字系の外国人には日本語へのアプローチがそれほど難しくはないと感じている。文字の表記であれ、発音やアクセントであれそう思う。
     まず、担当の教師と学習者が交わす情報交換について、一般的に念頭に入れておく必要がある方法を説明する。教師は、間接的に学習者の感情を受け入れて(例、冗談を言う)、学習者の考えを取り入れ、ほめたり励ましたりして、時には質問をする。また、直接批判をしたり、時には指示、命令を出す。一方、学習者は、外国語を学習しながら、応答的または自発的な発言をして、言語活動を展開していく。問題となるのは、相互作用のない沈黙や混乱の状態に陥ることである。
     次に、授業の計画についてである。日本語の授業の計画法は2つある。1つは、目標分析と単元構成、もう一つは、授業案の作成である。第一に目標分析票を作成し、そこに目標の内容(一課分の教材)と能力目標(認知面と情意面)を示しておく。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ3

    1.2 ビジネス会話

     「ビジネス日本語会話」では、学習者に初級が終了した日本語のレベルを求めている。ビジネスは、「ある組織に属している人が、同じ組織または外部の人とその組織の機能または目的を達するために何らかの関わりを持つ行為」と定義され、様々なビジネス上の場面を通して、組織の「うち、そと」とか上下関係のような対人関係で変化する日本語固有の待遇表現を取り上げている(ビジネス日本語会話)。日本語は、直接表現を多様する中国語と異なり、コミュニケーションの際に断定表現を避けながら、間接的な表現を用いることが多い。これは、対人に対してできるだけ丁寧に振舞うといった日本のビジネスルールによっている。
     各課の構成は、ビジネス上のダイアログ(中国語訳付)、語彙、重要な表現(使い方の説明や例文あり)および練習からなっている。ここでは、一課を6コマで終えるケースを想定して教案の説明をする。最初に、新出単語を音読してからダイアログを音読する。ダイアログの背景やキーワードも合わせて説明していく。ここまでで30分から35分である。 
     次に、重要な表現を説明する。取り上げられている表現の数にもよるが、このパートは、30分から35分である。最後に、練習問題を扱うが、この課の重要な表現について場面を想定しながら使用する練習である。慣れるまでは、教師と学生が一対一で練習する。その際、テキストにあるビジネス会話を少し拡張させることもある。このパートは、60分から70分ぐらいである。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ2

    1 教案の作成方法

    1.1 日本語の基礎会話

     「みんなの日本語1」と「みんなの日本語2」の教案は、概ね作業内容が同じである。無論、随時内容を動かしながら授業を進めるので、異なる点も出てくる。まず、学期毎に1週間のコマ数を確認してから、時間の配分を決める。ここでは、一課を4コマで終えるケース(2コマx2回、1コマは45分)を想定して、教案の例を説明していく。各課の文型については、補習用の資料を参考にしている。構文の解釈に基づいて、重要なポイントを説明していく。
     例えば、41課は、初歩的な敬語表現の勉強をする。まず、例文を使って発音の練習をする。ここでは、「あげます」、「もらいます」、「くれます」といった受け渡しの表現を勉強する。表現方式を示す際、それぞれ対応する敬語(「さしあげます(謙譲語)」、「いただきます(謙譲語)」、「くださいます(尊敬語)」)についても合わせて説明する。構文については、「動詞て形+さしあげます」、「動詞て形+いただきます」、「動詞て形+くださいます」というように分類して、それぞれテキストにある例文を示す。一回のクラス(45分x 2の場合)では、このパートは30分が目安である。
     次は会話の練習で、まず全員で音読をする。それから二人一組(ペアワーク)で音読の練習をする。学生の数にもよるが、このパートは25分が目安である。練習Aは、文型とその構文の確認である。ここは10分。練習Bについては、回答をすべて黒板に書く。この練習の内容を使って学期末に筆記テストを行うため、学生にも回答を書くように勧めている。ここは40分ぐらい。練習Cは、単語を入れ替えて会話文を作る練習なので、15分とする。各課の最後にある問題のパートは、聴解が25分、残りが30分から35分で進めていく。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ1

    【要旨】

     2009年3月から2011年1月まで、武漢科技大学外語外事職業学院で日本語教師を務めている。担当科目は、1年生と2年生のための基礎会話と2年生の後半から3年生にかけて勉強するビジネス会話である。 中国人に日本語の会話や作文を教授する際に、効果が上がると思われる方法について教案を通して検討している。しかし、学期の毎に修正や改良が必要となる。まず、私の教案の作り方について説明し、次に会話や作文からやさしい翻訳まで全体的に関連づけて話を進めていく。最後に現在未解決の問題についても触れようと思う。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える9

    4 まとめ

     横光利一の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「蝿」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    片野善夫 ほすぴ162号 日本成人病予防協会 2018
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社  2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 フランツ・カフカの"Die Verwandlung"の執筆脳について ファンブログ 2020
    横光利一 蝿 青空文庫 

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

    A:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。 

    結果 横光利一は、この場面で真実を理解しているのは大きな目をした蝿だけで、新情報がテンポよく流れるも問題は未解決のままとし、読み終えて誰もが考えるように工夫している。そのため「蝿の眼と真実」と「観察と思考」という組が相互に作用する。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)
     
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
     
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。 

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える6

    分析例

    1 馬車が滑落する場面。
    2 この小論では、「蝿」の購読脳を「蝿の眼と真実」と考えているため、意味3の注意ありなしに注目する。 
    3 意味1 ①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3振舞い ①直示②隠喩③記事なし、意味4注意①あり②なし、4 人工知能 ①観察、②思考 
      
    テキスト共生の公式

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「蝿の眼と真実」を作る。
    ステップ2:蝿の眼を通した「観察と思考」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:①視覚+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。 
    B:「①視覚+②聴覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。
    C:「①視覚+③味覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。
    E:「①視覚+②聴覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考ありという組と合わせる。

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より