これまでに中島敦(1909-1942)の「山月記」執筆時の脳の活動を思考とし、シナジーのメタファーを作成している。(花村2018) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で中島敦の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。ここでシナジーのメタファーといえば「中島敦と思考」を指す。
花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より
これまでに中島敦(1909-1942)の「山月記」執筆時の脳の活動を思考とし、シナジーのメタファーを作成している。(花村2018) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で中島敦の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。ここでシナジーのメタファーといえば「中島敦と思考」を指す。
花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より
数字の意味を言葉で確認しておこう。
-0. 7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
-0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
0.7≦r≦1 強い正の相関がある
5 まとめ
中島敦の「山月記」のデータベースのうち、言語の認知のカラム、思考の流れ1ある、2ないと、情報の認知のカラム、人工知能(人格障害)で1反応範囲内2逸脱は、負の強い相関関係になることがわかった。
参考文献
花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 中島敦の「山月記」のデータベース 2019
前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
Aの平均:(2 + 3)÷ 2 = 2.5
Bの平均:(4 + 1)÷ 2 = 2.5
◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ-平均値
Aの偏差:(2 – 2.5)、(3 – 2.5)= -0.5、0.5
Bの偏差:(4 – 2.5)、(1 – 2.5)= 1.5、-1.5
◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
Aの偏差2乗 = 0.25、0.25
Bの偏差2乗 = 2.25、2.25
◆AとBの偏差同士の積を計算する
(Aの偏差)x(Bの偏差)= -0.75、-0.75
◆AとBを2乗したものを合計する。
Aの偏差を2乗したものの合計 = 0.25 + 0.25 = 0.5
Bの偏差を2乗したものの合計 = 0.25 + 0.25 = 0.5
◆Aの偏差とBの偏差の合計を計算する。-0.75 + -0.75 = -1.5
表2 計算表
A 2 3 合計5
偏差 -0.5 0.5 合計0
偏差2 0.25 0.25 合計0.5
B 4 1 合計5
偏差 1.5 -1.5 合計0
偏差2 2.25 2.25 合計4.5
AB偏差の積 -0.75 -0.75 -1.5
◆相関係数は、次の公式で求めることができる。
相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和
上記計算表を代入すると、相関係数 = -1.5/√0.5 x 4.5 = -1.5/1.5 = -1
従って、負の強い相関があるといえる。
花村嘉英(2019)「中島敦の『山月記』の相関関係について」より
表1 李徴が旧友の袁參に心情を吐露する
A 下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとしたのである。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に駆られて来た。
意味4 1 情報の認知3 1
B この頃からその容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀いで、眼光のみ徒らに炯々として、曾て進士に登第した頃の豊頬の美少年の俤は、何処に求めようもない。意味4 2 情報の認知3 1
C 数年の後、貧窮に堪たえず、妻子の衣食のために遂ついに節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。意味4 1 情報の認知3 1
D 一方、これは己の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遥か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙しがにもかけなかったその連中の下命を拝さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。彼は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。
意味4 2 情報の認知3 1
E 一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿った時、遂に発狂した。或る夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。彼は二度と戻って来なかった。附近の山野を捜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなったかを知る者は、誰もなかった。意味4 2 情報の認知3 2
花村嘉英(2019)「中島敦の『山月記』の相関関係について」より
シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や、区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。(前野2012)
相関とは原因から結果が生じ、互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要となる。
(1) 共分散の公式
共分散=[(xの各データ-xの平均値)x(yの各データ-yの平均値)]の和/データ数
=[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
= xとyの偏差積の和/データ数
正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。
(2) 相関係数(ピアソン)
相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)
「山月記」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。
花村嘉英(2019)「中島敦の『山月記』の相関関係について」より
中島敦の「山月記」において、李徴が旧友の袁參に心情を吐露する場面のデータベースから数字を取り既存の研究と照合するとパーソナリティ障害による思考の流れが確認できる。
この小論では、同じデータベースを使用して、相関関係を考察する。言語の認知のカラムは、思考の流れ、即ち、課題や問題が与えられたとき生じる、一連の精神活動で、周囲の状況に応じた現実的な判断や結論が1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能(人格障害)1反応範囲内または2逸脱である。
花村嘉英(2019)「中島敦の『山月記』の相関関係について」より
李徴は、この場面でベースとプロファイル型で外部から情報を取り込み、旧情報を基に問題未解決から問題解決へ向かっている。そのため「自尊心と自己愛性パーソナリティ障害」と「人生と思考」という組が相互に作用し、「中島敦と思考」というシナジーのメタファーが成立する。
この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
【参考文献】
中島敦 山月記 青空文庫 1998
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員通信講座テキスト ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より
A しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、又、己は俗物の間に伍することも潔よしとしなかった。 情報の認知1 1 情報の認知2 1 情報の認知3 2
B 共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心とのせいである。己おのれの珠に非ることをおそれるが故ゆえに、敢て刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった。 情報の認知1 1 情報の認知2 1 情報の認知3 2
C 己は次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによって益々己の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。 情報の認知1 1 情報の認知2 1 情報の認知3 1
D これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。今思えば、全く、己は、己の有っていた僅かばかりの才能を空費して了った訳だ。
情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 1
E 人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧きぐと、刻苦を厭う怠惰とが己のすべてだったのだ。 情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 1
花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より
情報の認知1(感覚情報)
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化である。
情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報はまたカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へ、である。
花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より