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  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ2

    2 統語論

    2.1 PTQの統語規則

     PTQで採用されている17の規則の多くがカテゴリー文法*に基づく関数適応規則になっており、(1)のように規定されるカテゴリー間を連接していく。*

    (1) 1 e, t∋Cat、2 A, B∈Catならば、A/B, A//B∈Cat
    (2)S1 すべてのカテゴリーに対してBA⊆PA、S2 α∈PIV/IVまたはα∈PIV//IVでβ∈PIVならば、F1(α, β)∈PIV

    (1)では、eが個体を、tが真理値を表すカテゴリーで、A/B、A//BはともにBカテゴリーと結び付いてAカテゴリーを派生する。2種のスラッシュは、統語上の区別のために採用されている。(2)S1は、複合表現を派生する規則ではなく、任意のカテゴリーに関し、そのすべての基本表現がその句の集合に含まれることを説明している。(2)S2は、例えば、動詞句修飾の副詞langsam(IV//IV)がlaufenなどの自動詞(IV=t/e)と結び付いて新たな動詞句を派生する一方、lesenと結びついてversuchen zu lesenのような表現を派生するversuchenのカテゴリーがIV//IVとなることを示している。*
     PTQには話法の助動詞のカテゴリーはない。これは、内包論理の中で演算子として現れる。否定詞も基本表現には含まれず、時制演算子とともに主部と述部を結びつける統語規則の中で導入され、接続詞も文なり句なりを結ぶ統語規則として組み込まれている。さらに、限定詞に関する統語規則の一つとして普通名詞に不定冠詞を加えて名詞句を派生する規則がある。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ1

    1 はじめに

     この論文は、モンタギュー文法(Montague Grammar: MG)*から一般化句構造文法(Generalized Phrase Structure Grammar: GPSG)*そして主要部駆動句構造文法(Head driven Phrase Structure Grammar:HPSG)への理論的な変遷を追いつつ、GPSGやHPSGが採用しているイディオムや修飾語の分析*に対し、モデル理論からの修正を試みる。
     最初に、それぞれの理論の統語規則を考察し、GPSGによるMGの意味論の修正を行い、イディオムに関する内包論理(Intensional Logic: IL)の有意表現に対する指示対象の割り当て方を検討する。
     続いて、GPSGの統語論と意味論を拡張することに成功したHPSGを使用して、イディオムの内部が修飾される例を分析する。形容詞の修飾は、統語的であるが、意味的には副詞のように動詞にかかる。これをHPSGによるイディオムの原理で説明する。また、イディオムが小説に入ったときの扱いについても合わせて検討する。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える8

    4 まとめ

     阿部公房の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「飢餓同盟」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
     
    参考文献

    阿部公房 飢餓同盟 新潮文庫 2011
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」 2020年 

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。    

    結果     
     阿部公房は、この場面で革命を目指すも権力者に負けるという皮肉や登場人物の諧謔を見せながら、現実が寓話と非現実からなると眼と心で感じているため、購読脳の「アイロニーとユーモア」から「視覚と心的活動」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 森四郎は飢餓同盟員であることを認める場面。
    2 この小論では、「飢餓同盟」の執筆脳を「視覚と心的活動」と考えているため、意味3の思考の流れ、視覚に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3異化①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし  
    4 人工知能 ①視覚、②心的活動     
     
    テキスト共生の公式    
     
    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「アイロニーとユーモア」を作る。
    ステップ2:現実を寓話と見る眼と現実を非現実と感じる心が購読脳の出どころと考えているため、「視覚と心的活動」という組を作り、解析の組と合わせる。  

    A:①視覚+①喜+②なし+①直示という解析の組を、①視覚+②心的活動という組と合わせる。
    B:①視覚+④楽+②なし+①直示という解析の組を、①視覚+②心的活動という組と合わせる。  
    C:[①視覚+②聴覚]+④楽+②なし+①直示という解析の組を、①視覚+②心的活動という組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①視覚+②心的活動という組と合わせる。
    E:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①視覚+②心的活動という組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    A 森がトランクをさげて、仲通リを駅の方に歩いていくと、おまつり気分の人なみがぞろぞろ西の方に流れていくのに出会った。森の顔を見おぼえている子供がいて、温泉が出たそうだよ、見に行かないの、と教えてくれた。意味1 1、意味2 1、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    B まだ二十分ある、のぞくだけは、のぞいてみようかと、流れについてしばらく行くと、県道をこえた畠地のあたりかで、やがて大きな人垣にぶつかった。その向こうに、しろい上記の柱が、サーチライトの光に照らし出され、発狂した薄布の束のようになって、うなりながら見物人の上で渦まいているのが見えた。
    意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    C 拍手がおこり、それから楽隊の演奏がはじまった。ふと後ろから、群衆をかきわける、警備員の声がする。こじ開けられた人垣のあいだを、かき分けてやってくるのは、なんと花束をかかえた振袖姿の藤野うるわしではないか。うるわしは、ちらっと森に無関心な視線を投げかけると、そのまま前をとおりすぎ、ゆうゆうと人垣の向こうに吸い込まれていってしまった。意味1 1+2、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    D 森は思った。まったく、現実ほど、非現実なものはない。この町全体が、まさに一つの巨大な病棟だ。どうやら精神科の医者の出るまくなどなさそうである。われわれに残されている仕事と言えばせいぜいのところ、現実的な非現実を、かくまい保護してやるくらいのことではあるまいか。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

    E 森は人垣はなれて、歩き出した。しかし、駅の方にではなく、いまやって来た道を、もう一度診療所の方へ・・・新しい勤め先がきまるまで、どのみちたっぷり暇なのだ。傷だらけになった、飢餓同盟に、せめて包帯のサービスくらいはしてやるがいい。森ははじめて、自分が飢餓同盟員であったことを、すなおに認めたい気持ちになっていた。正気も、狂気も、いずれ魂の属性にしかすぎないのである。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    A 森がトランクをさげて、仲通リを駅の方に歩いていくと、おまつり気分の人なみがぞろぞろ西の方に流れていくのに出会った。森の顔を見おぼえている子供がいて、温泉が出たそうだよ、見に行かないの、と教えてくれた。意味1 1、意味2 1、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    B まだ二十分ある、のぞくだけは、のぞいてみようかと、流れについてしばらく行くと、県道をこえた畠地のあたりかで、やがて大きな人垣にぶつかった。その向こうに、しろい上記の柱が、サーチライトの光に照らし出され、発狂した薄布の束のようになって、うなりながら見物人の上で渦まいているのが見えた。
    意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    C 拍手がおこり、それから楽隊の演奏がはじまった。ふと後ろから、群衆をかきわける、警備員の声がする。こじ開けられた人垣のあいだを、かき分けてやってくるのは、なんと花束をかかえた振袖姿の藤野うるわしではないか。うるわしは、ちらっと森に無関心な視線を投げかけると、そのまま前をとおりすぎ、ゆうゆうと人垣の向こうに吸い込まれていってしまった。意味1 1+2、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    D 森は思った。まったく、現実ほど、非現実なものはない。この町全体が、まさに一つの巨大な病棟だ。どうやら精神科の医者の出るまくなどなさそうである。われわれに残されている仕事と言えばせいぜいのところ、現実的な非現実を、かくまい保護してやるくらいのことではあるまいか。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

    E 森は人垣はなれて、歩き出した。しかし、駅の方にではなく、いまやって来た道を、もう一度診療所の方へ・・・新しい勤め先がきまるまで、どのみちたっぷり暇なのだ。傷だらけになった、飢餓同盟に、せめて包帯のサービスくらいはしてやるがいい。森ははじめて、自分が飢餓同盟員であったことを、すなおに認めたい気持ちになっていた。正気も、狂気も、いずれ魂の属性にしかすぎないのである。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「飢餓同盟」のデータベースのカラム

    文法1 名詞の格 阿部公房の助詞の使い方を考える。
    文法2 態 能動、受動、使役。
    文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ ありなし 。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「アイロニーとユーモア」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能(視覚と心的活動) エキスパートシステム 視覚とは、光のエネルギーが網膜の感覚細胞に対し刺激となって生じる感覚。 心的活動とは、経験者の報告や表情、身振り、手ぶりといったその人の振舞いにも表れる。

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える2

    2 「飢餓同盟」のLのストーリー

     阿部公房(1924-1993)は、八方塞がりの壁を突破する可能性を探り続けている。戦後、長期保守政権下にあった日本の政治を壁に見立てて、その縮図から突破口を探求していく。町の秩序に順応できない余計者からなる飢餓同盟は、一応人間の絶対自由を実現するための集まりである。リーダー格の花井太助は、自身で湯が出ない町の復興を夢見る男で、地熱探査技師の友人識木順一を担ぎ出し、温泉の吹き上がる蒸気で地熱発電所を作ろうと考える。
     突破口を破るには、金を工面し、役所の認可も要請しなければならない。しかしながら、こうした花井の計画は、現状維持を掲げる町長や開業医のボスに横取りされ、狂人として病院に収容される。理想を掲げる運動が紆余曲折を経て変わっていく様子が日常目の当たりになる。そして風刺や寓意を得意とする阿部公房の真骨頂が発揮される。
     佐々木(2011)によると、「飢餓同盟」の特徴としてもじりの手法を挙げている。花井の夢は幻であり、所詮挫折に通じるといった寓話ではなく、ほろ苦いアイロニーとブラックユーモアからなっているためである。そこで、「飢餓同盟」の購読脳は、「アイロニーとユーモア」にし、その出どころとして現実を寓話以上に寓話と見る阿部公房の眼と、さらに現実こそ非現実と感じる彼の心を想定しているため、執筆脳は「視覚と心的活動」にする。「飢餓同盟」のシナジーのメタファーは、「阿部公房と意識」である。 

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より