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  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察18

    3.4    anfangen、beginnen、aufhören

     2.1の最後にEngel(1976)の上記3動詞に関する識別方法では不十分であるとし、その理由を例文(20)においてすら「あるプロセスの始まり」を表す場合があるとした。
     (20)の文が表すこうした意味上の曖昧性を説明するために、ラインヴァインの提示した概念、主語内的、主語外的を借用すると、(20)の文が「意図」をともなう場合は、様相因子が主語内的になり、「あるプロセスの始まり」を示す場合は、様相因子が主語外的になる。このことをまとめと、次のようになる。

         Normativergänzung     意味 様相因子
    様相動詞 +Anim Abst(als Hum)   意図  主語内的
    本動詞  Abst(als Hum) -Anim、Abst プロセス開始 主語外的

     ここで、<+ Anim、Abst(als Hum)、-Anim、Abst>は、Helbig und Schenkel(1969)の用語である。尚、Helbig und Schenkel(1969)について一言述べると、anfangen、beginnen、aufhören(aufhörenの記載は実際にない)の項で、zu不定詞句とdaß文が相応して書き換えが可能とされている点は適切ではない。なぜなら、先に特性Cに関して記したように、主語同定の関係にある場合、従属文には、主にzu不定詞句が現れ、daß文がそれと同レベルで下位構造になることは、とりわけ実用的なレベルではないからである。
     Anfangenに関する表2は、beginnenやaufhörenについても該当する。但し、Normativergänzungに現れる特性には違いが見られる。(Helbig und Schenkel 1969)。
     最後に問題となるのは、様相因子の動き具合である。先の図からでは、この点が説明されない。そこで、言語を統語上も意味上も曖昧性なく記していく、モンタギュー流の手法により、さらに検討してみることにする。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    3.3    様相の意味論

     様相の意味論は、これまで主に話法の助動詞から研究がなされてきた。そのうちの一つにReinwein(1977)がある。ラインヴァインは、伝統的な話法の助動詞のそれぞれの読み(Primitivprädikat)を統語レベルでの分類(認識的epistemisch)、主語内的(intrasubjektiv)、主語外的(extrasubjektiv)と掛け合わせている。

    話法の助動詞

    können 認識的(可能)、主語内的(能力)、主語外的(許可)
    müssen 認識的(必然)、主語外的(要求)
    dürfen 認識的(可能)、主語外的(許可)
    sollen 認識的(主張)、主語外的(意志)
    mögen 主語内的(意志)
    wollen 主語内的(意志)

     ここでいう認識的、主語内的、主語外的な統語構造とは、それぞれ、自動詞や他動詞のうち二価と三価のものに相応している。しかし、この表に示された話法の助動詞の読みが、2.1で列挙した動詞の意味合いとどれほど合致するのか調べてみると、pflegen、anfangen、anheben、beginnen、aufhörenには適合しない。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    3.2    様相動詞に準ずる動詞

    (21) Das Problem ist kaum zu lösen.
    (22) Es bleibt noch viel für dich zu tun.

     (21)と(22)は、確かに意味上で様相を表している。しかし、それぞれが次のように書き換えられるため、特性C及び特性Gに違反することから、様相動詞には数えられないことになる。

    (21)※ Das Problem kann kaum gelöst werden.
    (22)※ Es muß noch viel getan werden.

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    特性Hについて 
     anfangen、beginnen、aufhörenがVollverben(本動詞)として見なされる場合も、やはり主語同定となる。C1を理由にzu不定詞句が現れるためである。Engel(1976)では、この3動詞に関する双方の識別方法が次のように示されている。

    (17) Die Sache fängt an, mir Spaß zu machen.
    (18) Es fängt an zu regnen.
    (19) Der Strauß fängt an zu welken.
    (20) Heinrich fängt an zu singen.

    (20)は、Heinrich fängt mit dem Singen an oder Heinrich fängt damit anと書き換えられる。一方、(17)、(18)、(19)はそれができず、また、(20)は、意味上「意図」をともなうことがあるも(17)、(18)、(19)は「あるプロセスの始まり」を表すにすぎず、統語論上、意味論上の区別が可能である。しかし、(20)が「プロセスの始まり」と見なされる場合も考えられ、Engel(1976)で提示された識別方法が、説明上妥当なものとは思えない。詳細については、2.4で考察する。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    特性Cについて 

     上記動詞のうち、zu不定詞句を従える本動詞には、その代用表現として、daß文が現れる場合がある。

    (13)Der Patient drohte, das Krankenhaus zu wechseln.
    (14)Der Patient drohte, daß er das Krankenhaus wechseln wird.

     一般的なzu不定詞句とdaß文の関係を示唆することにより、様相動詞が下位構造としてdaß文を認めない理由も明らかになる。

     C1 Engelen(1975)によれば、下位構造としてzu不定詞句とdaß文を相対的に支配することができる動詞においても、従属文の主語が主文における何かしらの相応成分と同定可能な場合、とりわけzu不定詞句が現れる傾向にあり、また、Motsch et al (1981)にも類似した記述があり、そこには、Engelen の言う主文の何かしらの成分とは、主語、3格、4格の目的語と明記されている。

    (15)※ Ich hoffe, daß ich dich bald wiedersehe.
    (16) Ich hoffe, dich bald wiederzusehe.

     C2 主語同定(Subjektidentisch)という特性を担う様相動詞が、zu不定詞句を従えるというのも、C1を考慮することによりはっきりしよう。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    D 前置詞付きの副詞を取ることはできない。

    (6)Ich hoffe darauf, sie wiederzusehen. (6)の形にはならない。(Engelen)

    E 補充的なes(expletiv)をとることはない。

    (7)例外 Ich vermag es nicht, ihn zu überreden.

    F 様相動詞は完了形を作らない。しかし、反例がまま見られることから、特性と言えるかどうか疑わしい。

    (8)Er hat spazieren zu gehen gepflegt.

    G 様相動詞は受動態を作らない。

    H 様相動詞の多くに同音意義の本動詞(Vollverben)がある。

    (9)Die Sonne scheint.
    (10)Er scheint zu schlafen.

     上記特性から、Neugeborn(1976)には、様相動詞群が列挙されている。例えば、brauchen:1必要がある(modal)、2使う(voll)。

    (11)Morgen brauchst du nicht kommen.(小学館独和大辞典)
    (12)Er braucht immer seine Fäuste. (同上)

     上記特性のうち、CとHについて補足説明する。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    3 zu不定詞句を従える様相動詞

     この章では、zu不定詞句を従える様相動詞のうち、anfangen、beginnen、aufhörenには、他と異なる統語論上、意味上論の特性があることを示す。同時に、上記3つの動詞がともなう主格補足後に様相因子が含まれているか否かにより生じる文の曖昧性を指摘する。

    3.1 統語論

     zu不定詞句を従える様相動詞の統語論上の定義は、とりわけEngelen(1975)、Engel(1976、1977)、Neugeborn(1976)に見られる。それらに基づくならば、この動詞群の統語特性は、次の通りである。

    A zu不定詞句を支配する。
    B E0(Normativergänzung)は、不定詞に依存し、定動詞には支配されない(Subjektidentisch)。即ち、様相動詞が省略されても。その文構造は変わらない。

    (4)Heinrich A pflegt M den Wecker B aufs Klavier C zu stellen V. (Neugeborn)
    M → V → A、B、C
    (4)’ Heinrich A stellt V den Wecker B aufs Klavier C.
    V → A、B、C

    C zu不定詞句の照応化も書き換えも不可。

    (5)Das Wetter verspricht, schön zu werden.
    (5)’ ※Das Wetter verspricht es/das.

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    R15、R16 時制に関する規則

     それぞれの統語操作は、σ3(x)=「Perf(x)」、σ4(x)=「Fut(x)」である。
    R15:Satz → Satz
    ÜR15:Perf(s)=Perf(s)
    R16:Satz → Satz
    ÜR16:Fut(s)=Fut(s)

    R17 関係節に関する規則

     統語操作は、σ5, n(x, y)=「(x, so daß n y)」

    R17:Subst oder N, Satz → Subst
    ÜR17:(S1, so daß n S2)={x|x ∈ S1 ⋀ x ∈ [xn|S2] }S1 ∈Subst, N S2 ∈Satz

    R18、R19、R20 量化に関する規則

     対応する統語操作は、σ6, n(x, y)= 「(x)(er n: y)」 
    R18は、従属文の人称代名詞と主文の人称代名詞の関係(Satz、N → Satz)を、R19は、非指示的な動詞のde-re読み(V、N → V)を、R20は、関係節をともなう名詞句の量化(Subst、N → V)を規定する。

    ÜR18:(S1)(er n:S2)=[xn|S1] ∈S2、S1 ∈ Satz、S2 ∈ N
    ÜR19:(S1)(er n:S2)={x|[xn|x∈S1] ∈S2}、S1∈V、S2 ∈ N
    ÜR20:(S1)(er n:S2)={x|[xn|x∈S1] ∈S2}、S1∈Subst、S2 ∈ N

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    R6、R8 副詞に関する規則
     
     R6は述語(Adv, V → V)を、R8は文(AdSatz, Satz →Satz)を修飾する副詞の規則である。

    ÜR6  S1(S2)=S1(in(S2))、S1 ∈ Adv、S2 ∈ V
    ÜR8  S1(S2)=S1(in(S2))、S1 ∈ AdvSatz、S2 ∈Satz

     尚、「nicht」、「notwendig」は、それらが論理的構造を示すことから、ÜR3として次のように規定されている。

    ÜR3 nicht ={P|~ex(p)}
       notwendig ={P|□ex(p)}

    R7 前置詞に関する規則

    ÜR7  S1(S2)=S1(in(S2))、S1 ∈ Präp、S2 ∈ N

    R9、R10、R11 連言に関する規則

     連言規則に対応する統語操作は、σ1(x,y)= df「(x=y)」である。R9は文(Satz、Satz → Satz)、R10は動詞(句)(V、V → V)、R11は名詞(句)(N、N → N)を接続する規則である。

    ÜR9(S1 und S2)= (S1 ⋀ S2)S1、S2 ∈ Satz
    ÜR10(S1 und S2)={x|x ∈S1 ⋀ x ∈S2}S1、S2 ∈ V
    ÜR11(S1 und S2)={p|p ∈S1 ⋀ p ∈S2}S1、S2 ∈ N oder Subst

    R12、R13、R14 選言に関する規則

     選言規則に対応する統語操作は、次の通りである。σ2(x、y)=「(x oder y)」
     R12、R13、R14及びそれぞれの翻訳規則は、連言に関する規則と平行に考えられている。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

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    R3、R4、R5 他動詞に関する規則

     R3は名詞(TrVn, N od. Subst → V)を、R4はdaß文(TrVSatz, Satz → V)を、R5はzu不定詞句(TrVv, V → V)を従える規則である。

    (3) Heinrich findet eine Hexe. 1
         △
     Heinrich  finden eine Hexe 3
          △
       finden eine Hexe 2
      △
     ein Hexe

    ÜR3 S1(S2)= S1(in(S2))、S1 ∈ TrVn、S2 ∈ N, Subst

    翻訳
    1 in(finden(ein(Hexe)))∈ Heinrich ÜB1
    2 in(finden(ein(Hexe)))∈ {P|in (Heinrich) ∈ P} ÜB1
    3 in(Heinrich)∈ finden (in (ein (Hexe))) ÜB3
    4 in(Heinrich)∈ finden (in (PQ|∃x(x ∈ P ⋀ x ∈ Q))(Hexe)ÜB4

     尚、能動と受容(werden)の間に意味上の際が生じない他動詞に対して(変わるもの、例、erwarten)、次の定義が設けられている。
    D1 ∀x∀P(x ∈ T(P) [y|x ∈ T([[y]]) ∈ P)

    5 ∃x(x ∈ Heinrich ⋀ in(Heinrich)∈ finden([[y]])

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より