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  • シナジーのメタファーのシステム1

     広義のシナジーのメタファーを考察するため、個々のデータベースを束ねたシステムの構築とその評価について検討が必要になる。例えば、危機管理者としての作家の執筆脳を社会学の観点から集団の脳の活動と見なし、人文科学が研究対象とする個人の脳の活動と組にする。通常、システムの構築は、エンジニアにより行われる。ここでは、何かと地球規模を想定しているため、グローバルなシステムを安定させるための方法やローカルとの連携などについて考える。
     イメージで捉えてみよう。人文と社会の間には文化があり、人文と医学の間にはカウンセリングがある。そして、人文と情報の組で見ると、例えば、コーパス、パーザー、機械翻訳、計量言語学(いずれも購読脳)さらには小説のLのデータベース(執筆脳)があり、一方で社会や医学と情報システムが組をなして全体的にバランスを取っている。図の中央にある縦横のシナジーの目は、脳科学の役割を果たし、司令塔としてそれぞれの系列に指示を出すイメージである。
     無論、イメージ図の中には地球規模として東西南北からオリンピックにまで広がる国地域があり、また、Tの逆さの認知科学の定規と縦横に言語と情報の認知を取るLの定規、さらにはロジックを交えたメゾの箱が含まれている。こうした地球規模とフォーマットのシフトを条件とする、総合的で学際的なマクロの文学研究が人生をまとめるための道標として人文科学の研究者たちにも共通認識になるとよい。

    花村嘉英(2021)「医療社会学からマクロに文学を考える」より

  • シナジーのメタファーのプロセス

    [フローチャート] 
    ① 知的財産が自分と近い作家を選択する。
    ② 場面のイメージの対照表を作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
    ③ 解析イメージから何れかの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
    ④ 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
    ⑤ 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
    ⑥ 問題解決の場面では、Lに縦横ABを滑ってCに到達後、解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐに解析イメージに戻る。
    ⑦ 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の意思決定を想定する。
    ⑧ 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。

    ①、②、③は受容の読みのプロセス、④は認知科学の前半と後半、⑤、⑥は異質のCとのイメージ合わせになり、⑦で作家の脳の活動を探り、⑧でシナジーのメタファーに到達する。DBの作成については、これらが全て収まるようにカラムを工夫すること。

    ①一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業は②と③でも行われる。
    ② 場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。
    ③ テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」という組にする。組が見つからなければ、①から③のプロセスを繰り返す。
    ④ 認知プロセスの前半と後半を確認する。
    ⑤ 場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。
    ⑥ 問題解決の場面は、異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。
    ⑦ 各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。
    ⑧ これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「魯迅とカオス」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。

    花村嘉英「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • シナジーのメタファーとは2

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロの分析方法である。基本のパターンは、縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、各場面をLに読みながらデータベースを作成して全体を組の集合体にし、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探していく。
     執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
     トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
     筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーとは1

    シナジーのメタファーとは

     小説を読むときは、通常、作品の受容を考えるため、読者の脳の活動が問題になる。一方、作家の執筆時の脳の活動を探るために、この小論では共生の読みについて考察していく。シナジーのメタファーは、受容と共生をまとめる一例である。考え方は、通常のメタファーを踏襲し、Aが根源領域、Cが目標領域、そしてBがその写像という関係になる。ここではAが人文科学、Bが認知科学、Cが脳科学である。<br> 論文の目的は、小説のデータベース(DB)を作るために必要なシナジーのトレーニングについて考え、受容と共生からなるDBを作成し、シナジーのメタファーを考察することにある。但し、シナジーのメタファーのイメージを整えるために、CからBへのリターンを想定している。文学研究をマクロにシステム化するためである。

    Lのストーリーの作り方-文学と計算のモデル

    ① 縦は言語、文学、○○語教育といった人文の軸、横は共生の軸で、奥に行くと双方を調整する脳科学がある。
    ② 縦は解析イメージであり、横は生成イメージである。表象とは、知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動のことである。例えば、言語、記憶、感情、思考、判断といった精神活動は、脳が生み出している。また、シンボルは知覚するものであり、パターンはその処理に当たる。
    ③ 縦横のテーマには、トーマス・マン、魯迅、鴎外そして英独中日といった東西の言語や文化の比較、リスク回避と意思決定による作家の脳の活動や知的財産などがある。
    ④ このモデルの役割は、A(人文)+B(認知)の解析イメージとB(認知)+C(脳科学)の生成イメージをまとめることにある。情報の流れは、AとBから異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。

    花村嘉英「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察25

    参考文献

    Allwood, J et al Logic in Linguistics, 1977(日常言語の論理学 産業図書 1979)
    Benett, M A variation and extension of a Montague fragement of English, in Partee (ed), Montague Grammar, 119-163, 1976
    Chomsky, N On the generative enterprise, 1982, 生成文法の企て「言語」1984.9-1985.9
    Cooper, R and Parsons, T Montague Grammar, generative semantics and interpretive semantics, in Partee (ed), Montague Grammar, 311-362, 1976
    Engel, U und Schumacher, H Kleines Valenz lexikon deutscher Verben, 1976
    Engel, U Syntax der deutschen Gegenwartsprache, 1977
    Engelen, B Untersuchung zu Satzbauplan und Wortfeld in der geschriebenen deutschen Sprache der Gegenwart, 1975
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ 推論といえるのか? 新風舎. 2005
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る ブイツーソリューション. 2022
    Helbig, G und Schenkel, W Wörterbuch zur Valenz und Distribution deutscher Verben, 1969
    池谷彰 モンタギュー文法.英語青年6. P.8-10. 1982.
    井口省吾, 山科正明, 白井賢一郎, 角道正佳, 西田豊明, 風斗 博之 モンタギュー意味論入門, 三修社, 1987(Dowty, Wall and Peters (1981)からの翻訳).
    金子亨 法・様相などについて ドイツ文学74, 1-10 1985
    Lewis, D General Semantics, in Partee (ed), Montague Grammar, 1-50, 1976
    Löbner, S einführung in die Montague Grammatik, Gunter Narr, 1976
    ——- Intensionale Verben und Funktionalbegriffe, 1976
    Martin, R,M Why I am not a Montague Grammarian, Theoretical Linguistics, 2, 147-157, 1975
    Montague, R Universal Grammar, in Thomason (ed.), Formal Philosophy, 222-246, 1974
    ——- The proper treatment of quantification in ordinary English, in Thomason (ed.), Formal Philosophy, 1974, 247-270
    Motsch, W et al Grundzügeeiner deutschen Grammatik, 1981
    長尾真、淵一博 論理と意味 岩波書店 1983
    Neugeborn, W Zur Analyse von Sätzen mit finiter Verbform + Infinitiv, in Schumacher (Hrsg.), Untersuchungen zur Verbvalenz, 1976, 66-75
    野本和幸 フレーゲの言語哲学 勁草書房 1986
    Partee, B Montague Grammar and Transformational grammar, in Linguistic Inquiry 6, 203-300 , 1975
    ——- Some transformational extension of Montague Grammar, in Partee (ed), Montague Grammar, 1976, 51-76
    Reinwein, J Modlverb Syntax, in Studien zur deutschen Grammatik 6, 1977
    論理文法研究会編 様相論理学 上智大学 1989
    坂井秀寿 日本語の文法と論理 勁草書房 1985
    白井賢一郎 形式意味論入門 産業図書 1985
    Thomason, R  Introductions, in Thomason(ed.), Formal Philosophy, 1-69, 1974
    —— Some Extensions of Montague Grammar, in Partee (ed), Montague Grammar, 77-118, 1976
    内田種臣 様相と論理 早稲田大出版会 1979

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察24

     (20)、(24)、(25)のもう一つの読み、即ち「あるプロセスの始まり、終了」を規定する樹系図及びILへの翻訳式は、モンタギューのオリジナルの理論から規則づけることはできない。
     この結果は、予期されたものである。なぜならば、様相因子が主語内的、主語外的とは、生成意味論的な手法を改案し、表層統語レベルでの根拠づけを果たすために設けられた分析手段であり、表層に現れた言語現象に見られる曖昧性を取り、真理値の必要十分条件を定めるために設定されたモンタギューの内包論理に基づく意味解釈とは、本質的に異なるからである。
     しかし、この問題を解決する上で見込みがないわけではない。例えば、Cooper(1976)には、生成意味論とモンタギューの文法理論との折衷安が示されており、例として、文に現れる複数の読み(意図性、プロセスの変化)は、統語的に曖昧と考えず、つまり、単一の統語分析を考え、あくまで意味解釈の過程で厳密に分析されるべき問題となっている。
     この論文は、モンタギューの文法理論に対して決して否定的な立場にあるわけではない。言語学の目的の一つに、「ことばの意味に対する説明上妥当な記述を施すこと」というものがある限り、モンタギュー流の厳密な手法に基づく意味解釈の規定とは、それなりに意義があるからである。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察23

     (20)と同様に様相因子の係り具合により曖昧性が生じるbeginnen やaufhörenからなる文についてはどのように翻訳されるのであろうか。

    (24) Das Kind beginnt zu sprechen.
    (25) Das Mädchen hört auf zu weinen.

    (24)Das Kind beginnt zu sprechen. 1
           △
       das Kind  beginnen zu sprechen 5
              △
          beginnen sprechen

    翻訳
    1 in(beginnen(sprechen))∈ das(Kind) ÜR1
    2 in(beginnen(sprechen))∈ das(in(Kind))ÜR2
    3 in(beginnen(sprechen))∈{PQ|∃x(ex(P)={x}⋀ x ∈P}(in(Kind))ÜR4
    4 ∃x(Kind={x}⋀ x ∈{x| x∈beginnen(in(x∈sprechen))}ÜR5

    (25)Das Mädchen hört auf zu weinen. 1
          △
     Das Mädchen aufhören zu weinen  5
               △
          aufhören weinen

    翻訳
    1 in(aufhören(weinen))∈ das(Mädchen)ÜR1
    2 in(aufhören(weinen))∈ das(in(Mädchen))ÜR2
    3 in(aufhören(weinen))∈ PQ|∃x(ex(P)={x}⋀ x∈P)}(in(Mädchen))ÜR4
    4 ∃x(Mädchen={x}⋀ x ∈{x|x∈aufhören(in(x ∈weinen))}ÜR5

    (24)と(25)の翻訳式から得られる意味解釈もやはり「意図性」を含んでいる。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察22

    4.2 内包論理への翻訳

     Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の主語への係かり具合により生まれる曖昧性がモンタギュー流の内包論理、即ち、文が真となるための必要十分条件を設定し、規定できるかどうか検討していく。欲しい結果は、ILの翻訳により得られた式が上記の曖昧性を定義しうるということである。
     尚、(20)は、Löbner(1976)における基本表現には含まれていないものから構成されている。しかし、範疇さえ考慮すれば問題はなかろう。(20)のILへの翻訳を考える。

    (20)Heinrich fängt an zu singen. 1
           △
       Heinrich  anfangen zu singen 3
                 △
             anfangen singen 5

    翻訳
    1 in(anfangen(singen))∈ Heinrich ÜR1
    2 in(anfangen(singen))∈{P|in(Heinrich) ∈P} ÜR1
    3  in(Heinrich)∈{x|x∈anfangen(in(x∈singen))}} ÜR5

     この翻訳式からなる意味解釈は、「意図性」が現れる。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察21

     上述した分類によれば、beginnen(範疇TrVv)は、主語外延動詞とされている。しかし、先にも見たように、この動詞には様相因子の振舞いいかんで2通りの意味が考えられることから、修正が必要になる。
     即ち、beginnenが「あるプロセスの始まり」を表す場合は、確かに主語外延的な動詞と見なすことができる。しかし、「意図」をともなうと、前者に比してその表現内容に幅が生じ、主語内包動詞として振る舞うことになる。anfangen、aufhörenについても同様のことがいえよう。

    <beginnen>様相因子
    主語内的 → 主語内包的
    主語外的 → 主語外延的

     ここで対象としているのは、あくまで(20)の形(E0 (+Anim))であり、その他のものは、意識していないためである。無論、同形の文全てに2通りの読みがあるわけではない。例、Seine Schwester beginnt, alt zu werden. (主語外延的)

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察20

     一方、2つの動詞群は、持続的な行為及びプロセスを表し、その際、主語には時間的な広がりがあり、その内包は、変化しないとされている。

    (23)Der Bürgermeister kehrte zurück.

     (23)は、“Der Bürgermeister ist weggegangen.”という文を含意するためである。ILの表記では、∀x(x∈v→Konstant(x))となる。そして基本表現のうち主語内包動詞は、次の通りである。
     
    V altern、einschlafen、arbeiten、zurückkehren
    TrVn erkennen、verwöhnen、stören、beobachten、einschüchtern、begeistern
    TrVsatz begreifen、verdrängen、wissen、glauben、wünschen
    TrVv lernen、versuchen

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より