ブログ

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分10

    6 まとめ 

     データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。
     この種の実験は、およそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識して、できるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    【参考文献】
    芥川龍之介 河童 角川文庫 2008
    片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ-視覚 日本成人病予防協会 2018
    加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018  
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
    花村嘉英 芥川龍之介の「河童」の購読脳について 2020 

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分9

    【カラム】
    A平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0  
    B平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.5普通、標準偏差0.4普通、中央値1.5普通、四分位範囲0低い
    CD 平均1.9高い、標準偏差0.2普通、中央値2.0高い、四分位範囲0低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    A、B、C、Dのバラツキが比較的小さいことから、作者の考察は一定している。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →いろいろな河童の訪問を受けた。 
    ② 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →医者のチャック、哲学者のマッグの見舞いなど。 
    ③ 8、視覚以外、隠喩、新情報、未解決 →硝子会社の社長のゲエルも来た。 
    ④ 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →クラバックの土産なんかない。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 →トックの全集の一冊を朗読する。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は8割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合で視覚の情報が問題解決に効いており、新情報も多くテンポよくストーリーが展開している。

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分8

    ◆場面3 河童の訪問

    それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士によれば早発性痴呆症ということです。しかしあの医者のチャックは(これははなはだあなたにも失礼に当たるのに違いありません。)僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと言っていました。
    A1、B2、C2、D2

    医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫のバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。A1、B2、C2、D2

    ことに二三匹いっしょに来るのは夜、――それも月のある夜です。僕はゆうべも月明りの中に硝子会社の社長のゲエルや哲学者のマッグと話をしました。のみならず音楽家のクラバックにもヴァイオリンを一曲弾いてもらいました。A2、B2、C2、D2

    そら、向こうの机の上に黒百合の花束がのっているでしょう? あれもゆうべクラバックが土産に持ってきてくれたものです。……(僕は後ろを振り返ってみた。が、もちろん机の上には花束も何ものっていなかった。)A1、B2、C2、D2

    それからこの本も哲学者のマッグがわざわざ持ってきてくれたものです。ちょっと最初の詩を読んでごらんなさい。いや、あなたは河童の国の言葉を御存知になるはずはありません。では代わりに読んでみましょう。これは近ごろ出版になったトックの全集の一冊です。――(彼は古い電話帳をひろげ、こういう詩をおお声に読みはじめた。)A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分7

    【カラム】
    A平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0 
    B平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0
    C平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0  
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.4普通、標準偏差0.44普通、中央値1.5普通、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.7高い、標準偏差0.44普通、中央値2.0高い、四分位範囲0.5低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    袖の下の様子を風刺しており、情報は新だが、問題は解決に向かっていく。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。   
    ① 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →運命を定めるものは信仰と境遇と偶然である。
    ② 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →我々の神を信ずるわけにいかない。
    ③ 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →雌の河童がいきなり長老へ飛びかかった。
    ④ 5、視覚以外、直示、旧情報、解決 →大寺院の玄関を下おりた。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 →大寺院を振り返った。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は8割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合で視覚の情報が問題解決に効いており、新情報も多くテンポよくストーリーが展開している。

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分6

    ◆場面2 大寺院

    長老は僕の話を聞き、深い息をもらしました。
    「我々の運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけです。(もっともあなたがたはそのほかに遺伝をお数えなさるでしょう。)トックさんは不幸にも信仰をお持ちにならなかったのです。」「トックはあなたをうらやんでいたでしょう。いや、僕もうらやんでいます。ラップ君などは年も若いし、……」「僕も嘴さえちゃんとしていればあるいは楽天的だったかもしれません。」A1、B2、C2、D2

    長老は僕らにこう言われると、もう一度深い息をもらしました。しかもその目は涙ぐんだまま、じっと黒いヴェヌスを見つめているのです。「わたしも実は、――これはわたしの秘密ですから、どうかだれにもおっしゃらずにください。――わたしも実は我々の神を信ずるわけにいかないのです。しかしいつかわたしの祈祷は、――」A1、B2、C2、D2

    ちょうど長老のこう言った時です。突然部屋の戸があいたと思うと、大きい雌の河童が一匹、いきなり長老へ飛びかかりました。僕らがこの雌の河童を抱きとめようとしたのはもちろんです。が、雌の河童はとっさの間あいだに床の上へ長老を投げ倒しました。
    「この爺め! きょうもまたわたしの財布から一杯やる金を盗んでいったな!」A1、B2、C2、D2

    十分ばかりたった後のち、僕らは実際逃げ出さないばかりに長老夫婦をあとに残し、大寺院の玄関を下おりていきました。「あれではあの長老も『生命の樹』を信じないはずですね。」A2、B1、C1、D1

    しばらく黙って歩いた後、ラップは僕にこう言いました。が、僕は返事をするよりも思わず大寺院を振り返りました。大寺院はどんより曇った空にやはり高い塔や円屋根を無数の触手のように伸ばしています。なにか沙漠の空に見える蜃気楼の無気味さを漂わせたまま。……A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分5

    A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲0  
    B平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    C平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0  
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.2低い、標準偏差0.24普通、中央値1.0普通、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.7普通、標準偏差0.44普通、中央値2.0高い、四分位範囲0.5低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    A、B、C、Dのバラツキが比較的小さいことから、作者の考察は一定している。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。  
    ① 6、視覚、直示、新情報、未解決 →家族制度というものは莫迦げている。
    ② 6、視覚、直示、新情報、未解決 →若い河童の犠牲的精神に感心している。
    ③ 6、視覚、隠喩、新情報、解決 →トックは超人である。
    ④ 5、視覚、隠喩、旧情報、解決 →芸術家は善悪を絶っした超人であるべき。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 →仲間の詩人たちはたいてい同意見を持っている。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり高いため、視覚の情報が問題解決に効いている。

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分4

    ◆場面1 超人倶楽部

    ことに家族制度というものは莫迦げている以上にも莫迦げているのです。トックはある時窓の外を指さし、「見たまえ。あの莫迦げさ加減を!」と吐き出すように言いました。窓の外の往来にはまだ年の若い河童が一匹、両親らしい河童をはじめ、七八匹の雌雄の河童を頸のまわりへぶら下げながら、息も絶え絶えに歩いていました。
    A1、B1、C2、D2

    しかし僕は年の若い河童の犠牲的精神に感心しましたから、かえってその健気さをほめ立てました。
    「ふん、君はこの国でも市民になる資格を持っている。……時に君は社会主義者かね?」A1、B1、C2、D2

    僕はもちろん qua(これは河童の使う言葉では「然しかり」という意味を現わすのです。)と答えました。
    「では百人の凡人のために甘んじてひとりの天才を犠牲にすることも顧みないはずだ。」「では君は何主義者だ?だれかトック君の信条は無政府主義だと言っていたが、……」
    「僕か? 僕は超人(直訳すれば超河童です)だ。」A1、B2、C2、D1

    トックは昂然と言い放ちました。こういうトックは芸術の上にも独特な考えを持っています。トックの信ずるところによれば、芸術は何ものの支配をも受けない、芸術のための芸術である、従って芸術家たるものは何よりも先に善悪を絶っした超人でなければならぬというのです。A1、B2、C1、D1

    もっともこれは必ずしもトック一匹の意見ではありません。トックの仲間の詩人たちはたいてい同意見を持っているようです。現に僕はトックといっしょにたびたび超人倶楽部へ遊びにゆきました。超人倶楽部に集まってくるのは詩人、小説家、戯曲家、批評家、画家、音楽家、彫刻家、芸術上の素人しろうと等です。
    A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分3

    3 多変量の分析

     多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
     多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
     作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2隠喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
     まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
     最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。「城の崎にて」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
     なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分2

    2 芥川龍之介は日本を風刺する 

     「河童」の購読脳を「風刺と精神病」にする。結局、精神病院の院長は、狂人が早発性痴呆症患者であるという。しかし、セカンドオピニオン役の河童の国に生きる医者のチャックは、狂人ではなく、院長や来院者こそが早発性痴呆症患者であるとする。つまり、狂人は、本当のことがわかっていて、院長や聞き手の方がわかっていないとする。
     また、河童の国でも裁判官が失職すると発狂して精神病院に送られる。もし芥川が見舞いに行くとしたら、何をするのか。精神的な治療として聖書を進めたかもしれない。そこで、「河童」の執筆脳は、「機知と批判」にする。    
    購読脳の組み合せ「風刺と精神病」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として 「機知と批判」という執筆脳の組を考える。

     狂人は、事業に失敗した話になると、乱暴になる。汽車に乗ろうとして巡査に捕まり、病院に入れられた。病院でもどうやら日本の社会や人物の欠陥、罪悪のことを遠回しに批判していた。狂人の方が本当のことを理解している。シナジーのメタファーは、「芥川龍之介と逆転の論理」にする。 

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分1

    1 先行研究との関係

     これまでに芥川龍之介(1892-1927)の「河童」の執筆脳を「機知と批判」としてシナジーのメタファーを作成している。(花村2020) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で芥川龍之介の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。この小論ではシナジーのメタファーといえば「芥川龍之介と逆転の論理」を指す。  

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より