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  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える6

    分析例
    (1)ザムザがベッドに留まる場面。
    (2)文法2 テンスとアスペクト、1は現在形、2は過去形、3は未来形、4は現在進行形、5は現在完了形、6は過去進行形、7は過去完了形。 
    (3)意味1 1視覚、2聴覚、3味覚、4嗅覚、5触覚、意味2 喜怒哀楽、意味3 振舞いの1直示と2隠喩、意味4注意 1あり2なし。 

    テキスト共生の公式
    (1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「異化と人の最小価値」にする。害虫に変身したザムザは、動いて頭が壊れると、不思議なことが起こると考え、ベッドに留まることにした。 
    (2)文法1のテンスとアスペクトや意味2の五感には、一応ダイナミズムがある。また、連想分析1の各行の「異化と人の最小価値」を次のように特定する。
     
    A異化と人の最小価値=テンスは過去形、触覚、哀、直示、注意あり。   
    B異化と人の最小価値=テンスは過去形、触覚、哀、直示、注意なし。     
    C異化と人の最小価値=テンスは過去形、触覚、喜、直示、注意あり。
    D異化と人の最小価値=テンスは現在形、触覚、哀、直示、注意あり。
    E異化と人の最小価値=テンスは過去形、触覚、哀、直示、注意あり。
     
    結果 上記場面は、「異化と人の最小価値」という購読脳の条件を満たしている。

    花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える5

    【連想分析1】

    表2 言語の認知(文法と意味)

    A Zuerst wollte er mit dem unteren Teil seines Körpers aus den Bett hinauskommen, aber dieser untere Teil, den er übrigens noch nicht gesehen hatte und von dem er sich auch keine rechte Vorstellung machen konnte, erwies sich als zu schwer beweglich; es ging so langsam;
    文法2 2、意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1

    B und als er schließlich, fast wild geworden,mit gesammelter Kraft, ohne Rücksicht sich vorwärtsstieß, hatte er die Richtung falsch gewählt, schlug an den unteren Bettpfosten heftig an, und der brennende Schmerz, den er empfand, belehrte ihn, daß gerade der untere Teil seines Körpers augenblicklich vielleicht der empfindlichste war. 文法2 2、意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 2

    C Er versuchte es daher, zuerst den Oberkörper aus dem Bett zu bekommen, und drehte vorsichtig den Kopf dem Bettrand zu. Dies gelang auch leicht, und trotz ihrer Breite und Schwere folgte schließlich die Körpermasse langsam der Wendung des Kopfes. 文法2 2、意味1 5、意味2 1、意味3 1、意味4 1

    D Aber als er den Kopf endlich außerhalb des Betttes in der freien Luft hielt, bekam er Angst, weiter auf diese Weise vorzurücken, denn wenn er sich schließlich so fallen ließ, mußte geradezu ein Wunder geschehen, wenn der Kopf nicht verletzt werden sollte. 文法2 2、意味1 5、意味2 3、意味3 2、意味4 1

    E Und die Besinnung durfte er gerade jetzt um keinen Preis verlieren; lieber wollte er im Bett bleiben.
     文法2 2、意味1 5、意味2 4、意味3 1、意味4 1

    花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える4

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。
     
    【データベースの作成】
    表1 「変身」のデータベースのカラム
    項目名 内容     説明
    文法1 態     能動、受動、使役。
    文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相    可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感    視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  喜怒哀楽と記事なし。 
    意味3 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 注意    あり、なし
    医学情報 病跡学 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「異化と人の最小価値」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる
    記憶  短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化またはその他の反応。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 適合と反応の過程 エキスパートシステム 生物が環境に適合するように、自己の形態や修正を変化させる。刺激の基づく運動のプロセス。

    花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える3

    「変身」の文体は、冷静な報告調に見る衝撃(佐藤1979)とか存在の不安を怪奇な姿形で表したもの(藤本他1981)ともいわれ、構文的には接続法の使用が多い。これは、前日まで家族のメンバーであったグレゴール・ザムザが虫の目になって家族の様子を語っていることもある。つまり、現実から内容が少しずれているためである。
     例えば、Er hätte Arme und Hände gebraucht, um sich aufzurichten; statt dessen aber hatte er nur die vielen Beinchen, die ununterbrochen in der vershciedensten Bewegung waren und die er überdies nicht beherschen konnte.
     この文のhätteは、通常であればザムザが起き上がるために腕や手を用いるという仮定の意味があり、害虫に変身した今となっては、細かく動き支配できない多くの小さな足がその代わりをすることになる。なお虫の目からの社会観察は、日本語では横光利一の「蝿」が有名である。
     Egon Schwarz(1984)は、害虫に変わった瞬間に存在の問題が発生していると説く。カフカの場合、人間の存在について証言するという目的がある。選択された動物の特徴や機能に依存しながら、動物寓話の習慣、メールヒェンの伝統、口悪い風刺の作用といった文学上の関係が作られる。人間の最小価値を信号で知らせるためもあろう。
     そこには日常見慣れた表現形式によそよそしさを加えて異様なものを作り、内容をさらに理解させるための工夫がある。これは、異化効果と呼ばれ、登場人物の振舞いが歪みの法則により捉えられる。
     この小論では、「変身」についての購読脳は、「異化と人の最小価値」とし、執筆脳を「適応と反応」にする。また、自己の心的構造に適合するように外界の状況を適合させる同化に対し、自己を外界の状況に適合するように変化させる異化効果によるシナジーのメタファーは、「カフカと適応」にする。

    花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える2

    2 カフカの「変身」のLのストーリー

     フランツ・カフカ(1883-1924)は、プラハのユダヤ商人の息子として生まれ、裕福な家系で育った。しかし、キリスト教やユダヤ教への信仰に馴染まず、手塚(1981)によれば、根のない草である自分をつなぐ根底があるのかないのかが生涯の問いかけであった。因みに、ユダヤ教徒は、モーゼの法律に基づいてヤハウェを信仰し、イスラエルの人々のために神の国を現世に齎すメシアの登場を信じる。動物をモチーフにするカフカの作風は、有名であり、また、文体が常に彼の実存を反映し、空想やユーモアにも動機づけに真実がある。
     「変身」(1915)では、出張係とその家族の輝きのない生活からでは深い洞察が得られないため、ある朝ゾッとするほどの不気味な害虫に姿が変わり目覚める主人公を作る。グレゴール・ザムザは、出張の係をしており、汽車の出発時間に間に合わないから早く起きろといった家族との他愛も無いやり取りで始まる。 

    花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

  • フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     
    花村嘉英(2005)「ハインリッヒ・ベルの『旅人よ、汝スパ…にいたりなば』で執筆脳を考える」より

  • 谌容の『人到中年』で執筆脳を考える9

    4 まとめ   
     
     谌容の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「人到中年」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

    参考文献

    片野善夫 ほすぴ189号 ヘルスケア出版 2022
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019  
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学へのアプローチを考える 中国日語教学研究会上海分会論文集2021
    谌容 谌容集 海峡文艺出版社 1986 
    谌容 北京の女医-人、中年に至れば(田村年紀訳)第三文明社 1984
    Wikipedia 谌容 
    看護師の用語辞典

    花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

  • 谌容の『人到中年』で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知  
     
    同上     情報の認知1  情報の認知2  情報の認知3 
    A 表2と同じ。  3       2      1
    B 表2と同じ。  3       2      1
    C 表2と同じ。  3       2      1
    D 表2と同じ。  2       2      1
    E 表2と同じ。  3       1      2
     
    A:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。    
    B:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  
    C:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  
    E:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。       
     
    結果      
     日常眼科医として患者の治療にあたる妻が心臓病で入院し治療を受けている。夫の傅家杰は、苦学を共にした彼女との10年間の思い出が交錯するも詩で回復を祈るため、購読脳の「現実と矛盾」から執筆脳の「紆余曲折と光明」という組を引き出すことができる。    
     
    花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

  • 谌容の『人到中年』で執筆脳を考える7

    【連想分析2】 
     
    情報の認知1(感覚情報)   
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。  
      
    情報の認知2(記憶と学習)   
     このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。 
     
    情報の認知3(計画、問題解決、推論)   
     このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。 

    花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

  • 谌容の『人到中年』で執筆脳を考える6

    分析例 
     
    1 10年前と同様に詩で妻の回復を祈る。  
    2 この小論では、「人到中年」の購読脳を「現実と矛盾」と考えているため、意味3の思考の流れ、実現に注目する。    
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3放浪①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし、人工知能 ①実現②相互排斥。   
      
    テキスト共生の公式      
      
    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「現実と矛盾」を作る。 
    ステップ2:10年間でこんなに苦しむ妻を見たことがない。しかし、苦悩の中にも回復を詩で念じる夫の姿は「紆余曲折と光明」という組になり、解析の組と相互に作用する。 
     
    A:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①紆余曲折と②光明という組と合わせる。   
    B:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①紆余曲折と②光明という組と合わせる。  
    C:①視覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①紆余曲折と②光明という組と合わせる。  
    D:①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①紆余曲折と②光明という組と合わせる。  
    E:①視覚+①喜+①あり+①隠喩という解析の組を、①紆余曲折と②光明という組と合わせる。    
     
    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。 

    花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より