カテゴリー: 研究

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える4

    3 データベースの作成

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「クランクビーユ」のデータベースのカラム
    文法1 態  能動、受動、使役。
    文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 無謬性ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「現実と実体」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 裁判と無謬性 エキスパートシステム 裁判とは、物事を治め管理すること。無謬性とは、誤りを含まないこと。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える3

     第64号の巡査の思い違いも巡査としての役割から調節され実証として採用された。つまり、吾人は過失を犯している、吾人の五官による感覚と精神による判断は、瞑想の源であり、不確かさの原因である。一個人の人間の証言は信じてはならない。しかし、番号こそ信用しうる。バスティアン・マトラは過失を犯しうる、しかし、人間性を引いた警官第64号は誤りを犯すことがない。(Bastien Matra est faillible. Mais L’agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C’est une entité.)
     刑務所を出たクランクビーユの生活は、何一つ変わっていなかった。以前に比べて居酒屋に出入りするようになったぐらいである。道行く人は、刑務所から出てきた男には関わりたくはない。ロール婦人も然りである。クランクビーユは、誰一人軽蔑はしていない。しかし、彼女にだけ我を忘れて三度も罵しってしまった。
    皆がクランクビーユを疥癬患者扱いした。青物が売れなくなり根性がひがみ客の女たちを罵った。野卑な、付き合いの悪い、喧嘩っ早い男になってしまった。(Il devenait incongru, mauvais coucheur, mal embouché, fort en gueule.)飲酒の癖がついていた。しばしば朝の競り市にも間に合わなかった。堕落した自分に気づき、一心で激しくて強い気持ちを持っていた当時の生活は、過去のものとなった。
     とうとう一文無しになってしまった。夜遅い時刻に街に出た。巡査が一人ガス燈の灯影に立っていた。40歳位であろうか。近づいていき「犬め!」といってみた。巡査は、人が勤めをしているときにそんなことをいうもんじゃないという。(Quand un homme fait son devoir et qu’il endure bien des souffrances, on ne doit pas l’insulter par des paroles futiles.)クランクビーユは、雨の中を暗がりの中へ消えて行く。   
     山場は裁判の場面と考え、「クランクビーユ」の購読脳を「現実と実体」、執筆脳を「裁判と無謬性」とし、シナジーのメタファーは、「アナトール・フランスと裁き」にする。「クランクビーユ」は、アナトール・フランスが考える裁きに対する司法官の精神とその方向性とが融合した純度の高い小説である。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える2

    2 Lのストーリー

     アナトール・フランス(1844-1924)の「クランクビーユ」は、1901年に出版された。還暦を過ぎた老青物商人がパリの街を荷車に載せた野菜とともに練り歩く昔ながらの日常の話である。クランクビーユは、いつものように得意先の婦人らに声をかけては新鮮などこにも負けない野菜を売っていた。 
     十月に入りモンマルトルも秋めいてきた。些細な出来事があった。昼過ぎに靴屋のバイヤー婦人が老商人の車にやってきて葱を物色する。15スーでは高いから14スーにしてほしい。今店に行って金をとってくるから少し待つようにいう。しかし、第64号の巡査が現れ、クランクビーユに立ち止まらずに歩けと伝える。(C’est alors que l’argent 64 survint et dit à Crainquebille. Circulez!)
     法律を軽蔑しているわけではない。お代を待っているだけだと説明する。モンマルトル通りは、車の雑踏が頂点に達し、巡査は、混雑を緩和することしか頭になかった。靴屋の婦人はなかなか戻らず、別に反抗したわけではないが、警官を侮辱した違反者とでっち上げられ、クランクビーユは拘束された。(C’est sous cette forme que spontanément il recueillit et concréta dans son oreille les paroles du délinquant.)現場に居合わせた医者のマチュー博士が思い違いをしていると説明したにも関わらず。刑務所に連れていかれても野菜を積んだ自分の車の心配をしていたところへ弁護士が事情聴取に訪れた。  
     「犬め!」といったいわないで裁判が進行する。弁護士のルメルル先生は、第64号のマトラ巡査が過労もあり聴覚上の幻覚症状があったとか強執病で纏執発作にとらわれていた可能性もあり、一方でクランクビーユの発することばが犯罪の性質を有するかどうかも問題になるとした。結局ブリッシュ裁判長は、クランクビーユを15日間の拘留と50フランの罰金に処した。(M. le president Bourriche lut entre ses dents un jugement qui condamnait Jérôme Crainquebille à quinze jours de prison et cinquante France d’amende.)罰金は、すぐさま情けが出た。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える1

    1 はじめに

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する9

    6 まとめ

     人間の思考や言動を理解するには、喩え(メタファー)だけでは適切とはいえない。さらに作家の人間の条件として危機管理者を想定し、データベースの相互依存関係を理解する必要がある。リスク回避については、災害の避難、救急医療、株式の暴落、緊急着陸、生活全般(例、家庭崩壊)などが考えられる。これらを研究の題材としてシステムをつくることができれば、シナジーのメタファーを介してミクロとマクロの文学分析がバランスよく調節できるようになる。

    【参考文献】

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方 中国日語教学研究会上海分会論文集(2017)華東理工大学出版社 241-249
    ジグムント・バウマン、チィム・メイ 社会学の考え方(奥井智之訳) ちくま学芸文庫 2016 
    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」より

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する8

    5 効果

     ナディン・ゴーディマの”The Late Bourgeois World” のデータベースからシナジーのメタファーを外国語教育に応用することを考える。

    1 紙片の小説を使用して、一文または一場面に関して言語と情報の認知によりLに執筆脳の考察をすることは難しい。しかし、データベースを作成すれば、ラインでそれを処理することができる。
    2 ラインの数字を整える際、原文を何度も読み返すことにより、小説の重読となる。
    3 電子版の小説をエクセルに作成することが外国語を書くイメージにつながり、単語や熟語の検索そして英日対照表も作りやすくなる。
    4 外国語と母国語の対照表の作成は、翻訳のトレーニングにもつながる。
    5 作業単位が増えると、自ずと比較の言語文学へと展開し、副専攻の調節もできるようになる。
    6 比較の言語文学のデータを作るとき、電子データがあれば、個々のデータをかけ合わせることにより、人の目には見えないものが見えてくる可能性がある。
    7 データベースの相互依存関係から、人間の思考や言動を理解するには、喩えでは不適切なところもあり、人間の条件として、例えば、危機管理者としての作家を考察する。トーマス・マンであれば、20世紀の前半にドイツの発展が止まることを危惧して小説や論文を書き、魯迅であれば、作家として馬虎(詐欺をも含む人間的ないい加減さ)という精神的な病から中国人民を救済するために小説を書いている。
     森鴎外であれば、明治天皇や乃木大将が亡くなってから後世に普遍性を残すために歴史小説を書いた。また、ナディン・ゴーディマであれば、崩壊状態にあった反アパルトヘイト運動に白人がどのように関与できるのかを自問し、世の中の流れと逆流している自国の現状に危機感を抱き、何かの形で革命に関わりたいという意欲を持っていた。
    8 Lのデータベースは、セカンドのカラムを設けることができ、ミクロレベルの分析にも対応できる。川端康成の場合、主人公は実体となりそもそも存在し、主人公を理想の型に入れて加工しながら育てる世界に個物がある。こうした創造の一例を「雪国」に見る顔の表情という非言語情報からなるシステムと考え、川端が求める実体と個物の説明をデータベースのセカンドのカラムにより実験する。
    9 ミクロの分析は、例えば、言語の認知で見ると、単語や熟語、情報の認知で見ると、感覚情報や記憶で応用例がある。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」より

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する7

    【日頃からの準備】
    ① カラム構成から見て、記憶については勉強するとよい。短期記憶、作業記憶、長期記憶など、基本的な内容を抑えておく。
    ② Lのイメージで信号の流れが止まらないように、所属の系列や界隈を除いた非専門の系列のブラックボックスを消すために、翻訳の作業単位を作る。作業単位は、外国語と系列の専門知識を組にする。ビジネス翻訳、産業翻訳、機械翻訳、特許翻訳そして文芸翻訳などできるだけ偏ることなく実績を作ることが大切である。
    ③ 翻訳の作業単位を作りながら、人文と社会、文系と理系といった共生をイメージする。例えば、人文と情報、心理とメディカル、文化と栄養、法律と技術、社会と福祉、社会とシステム、ソフトウェアとハードウェアといった自分で処理できる文理の組み合わせが増えていけば、文献学の拡大版としてテキスト共生という評価項目を立てることができる。
    ④ 定番の読みの中には、作者が伝えようとする情報(執筆時の脳の活動)が必ず含まれている。

    【現状の評価】(2018年6月現在)
    ① これまで考案しているシナジーのメタファーは、「トーマス・マンとファジィ」、「魯迅とカオス」、「森鴎外と感情」、「ナディン・ゴーディマと意欲」である。
    ② 「ナディン・ゴーディマと意欲」については、”The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)」を題材にし、前頭葉の活動に焦点を置いている。男女の前頭葉の働きを区別するために、井上靖の「わが母の記」と比較した分析もある。
    ③ 「井上靖と連合野のバランス」は、「我が母の記」を題材にして、前頭葉、側頭葉、後頭葉、前頭葉の個々の働きだけでなく、連合した機能に焦点を当てている。さらに、教養小説、歴史小説、社会小説といったジャンル違いの微妙な読みに関する執筆脳の考察を考えている。
    ④ 「川端康成と認知発達」は、「雪国」執筆時の康成の脳の活動を考察している。購読脳の出力「無と創造」と執筆脳のゴール「人工感情と認知発達」を調節するために、存在の論理から「無と創造」と関連するバルカン文を置き、文理のバランスが取れるようにした。さらにセカンドのカラムとして「五感と顔の表情」を設け、脳の活動を調節する方法について考察した。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」より

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する6

    4 シナジーのメタファーのトレーニング(Version 1)

    【分析法】
     シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究すための分析方法である。まず、読者の購読脳が言語の認知を通して考察され、その出力が入力となって情報の認知を通ると作家の執筆脳が見えてくる。そもそも人文科学にはないLのフォーマットを考えるための前提として、非専門の系列のブラックボックスを消す必要がある。
     このLの分析のために必要となるものは、次の4つである。但し、3と4はどちらか一つでも客観性を上げることができる。
    ① Lのストーリーを作成する。
    ② リレーショナル・データベースを作成する、その際、セカンド的に何か他のカラムを考えてみる。例えば、言語と非言語のセカンドとして、顔の表情を考える。
    ③ データベースの統計処理を試みる。例えば、バラツキや推定など。
    ④ Lのストーリーを論理計算(カリキュレーション)で考える。

    【トレーニングの手順】
    ① 「森鴎外のデータベース化とその分析」を一読する。
    ② データベースのカラムの意味を確認してから、「山椒大夫」、「佐橋甚五郎」、「安井夫人」、「魚玄機」のエクセルのフォーマットに自分で数字を入力し、データを作成する。
    ③ 作成したデータベースのバラツキを調べて、既存の研究と照合する。一つは、文学研究と、また一つは、理系の研究と照合してみる。つまり、データベースは、文理双方と調節するための中間的な研究ツールである。
    ④ 照合ができれば、データベースは、一定のレベルで作成できている。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する5

     但し、Lのフォーマットを作る際に、非専門のブラックボックスを消す必要がある。これが難しい。そもそもやってもやらなくてもいいのであれば、積極的に取り組む人は少ないであろうし、やってみようと思ったところで、どうすればよいのか思案に暮れる。
     そこで、主の専門の人文系及び界隈の文化を縦にし、非専門の系列を学部修了位のレベルで横に滑るLのフォーマットを作ろうと思った。私の場合、文献学が基本のため、翻訳でLのフォーマットの土台を調節した。翻訳の作業単位は、外国語の知識と系列の専門知識が組になってできている。ドイツ語と文学、中国語と法律、英語と情報、ドイツ語とバイオ、英語とメディカルといった作業単位を中心にし、翻訳の実績を日々重ねている。
     また、実務のみならず、実績を整えるために、資格が取れるとよい。サラリーマンも資格を重ねてレポートを作成しなければ、昇進できない時代である。外国語はともかくとして、非専門の系列も客観的に評価されるためである。例えば、検定2級が取れれば、検定準1級位の勉強はしているといえるし、検定3級でも検定準2級の勉強はしているといえるであろう。このように実務や資格、問題解決のためのレポート作成は、誰にとっても人物評価をする際の材料となり、発言権を得るためになくてはならない実績であろう。私の社会人としての主な資格は、以下の通りである。

    1 日本成人病予防協会(JAPA)健康管理士一般指導員 2015年3月認定
    2 健康管理能力検定1級取得 2015年3月
    3 予防医学・代替医療振興協会(P&A)予防医学指導士 2015年12月認定
    4 エイブス・メディカル翻訳英和上級修了2016年3月(同コース初級修了2015年9月)
    5 予防医学・代替医療振興協会 代替医療カウンセラー 2016年4月認定
    6 認知症予防改善医療団(DMC)認知症ケアカウンセラー 2016年12月認定
    7 日本成人病予防協会 健康管理士一般指導員ゴールド 2017年4月認定
    8 バベル・ユニバーシティ中日契約書翻訳コース修了2017年10月

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」より

  • シナジーのメタファーを外国語教育に応用する4

    3 副専攻で資格を取る

     学歴を土台にして職歴を作る、こうしたキャリアの形成は、社会人にとって当たりまえのことである。サラリーマンの育成にも実務を踏まえて、資格を取るというルールがある。私の場合、主の専門は、人文、特に、ドイツ語学文学、言語学で、社会、情報、バイオ、メディカルは、副専攻である。
     二十代から三十代にかけて、立教大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻博士前期及び後期課程で主の専門の基礎を作り、続けてドイツ・チュービンゲン大学大学院新文献学部博士課程でドイツ語学、言語学(意味論)を専攻しながら、トーマス・マンのイロニーとファジィ理論の整合性について研究を進めた。その後、技術翻訳の仕事をしながらシナジー学会で研究発表をし、「計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」という著作を四十代前半に出版した。
     計算文学という用語は、誤解されやすい。情報科学の専門家が数理や技術の知識を用いて小説を分析すると理解されがちだからである。人文科学で行う計算文学は、Tの逆さの認知科学の定規を縦横に言語の認知と情報の認知からなるLのフォーマットに置き換えて、小説のリレーショナル・データベースを作成する。データベースの分析は、統計処理と論理計算のどちらか一つを条件にする。そして、作家の執筆脳の組(例えば、トーマス・マンとファジィ、魯迅とカオス、森鴎外と感情、ナディン・ゴーディマと意欲)を作ることができれば、シナジーのメタファーに到達するため、人文科学からの計算文学も成立する。(花村2005、2015、2017) 

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーを外国語教育に応用する」より