カテゴリー: 研究

  • カミュの「異邦人」で執筆脳を考える-不安障害5

    分析例

    (1)アラビア人を殺そうと意図していたわけでないと説明する場面。
    (2)この小論では、「異邦人」の執筆脳を「秘めた積極性と抗力」と考えているため、意味3の思考の流れは、抗力に注目する。  
    (3)意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3抵抗①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし、人工知能 積極性①あり②なし、抗力①あり②なし
     
    A ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①積極性+①抗力という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①積極性+①抗力という組と合わせる。
    C ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①積極性+①抗力という組と合わせる。 
    D ②聴覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①積極性+①抗力という組と合わせる。
    E ②聴覚+②怒+①あり+①直示という解析の組を、①積極性+①抗力という組と合わせる。   

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

  • カミュの「異邦人」で執筆脳を考える-不安障害4

    【連想分析1】
    (データベースからの抜粋)
    表2 言語の認知(文法と意味)

    A Quand le procureur s'est rassis, il y a eu un moment de silence assez long. Moi, j'étais étourdi de chaleur et d'étonnement. Le président a toussé un epu etsur un ton très bas, il m'a demandé si je n'avais rien à ahouter.
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1
     
    B Je me suis levé et comme j'avais envie de parler, j'ai dit un peu au hasard d'ailleurs, que je n'avais pas eu l'intention de tuer.L'Arabe. Le président a répondu que c'était une affirmation, que jusqu'ici il saisissait mal mon système de dèfense et qu'il serait heureux, avant d'entendre mon avocat, de me faire prèciser les motifs qui avaient inspiré mon acte. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

    C J'ai dit rapidement, en mêlant un peu les mots et en me rendant compte de mon ridicule, que c'ètait à cause du soleil. Il y a eu des rires dans la salle. Mon avocat a haussè les èpaules et tout de suite après, on lui a donnè la parole. Mais il a dééclaré qu'il était tard, qu'il em avait pour plusieurs heures et qu'il demandait le renvoi à l'après-midi. La cour y a consenti.  意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

    D L'après-midi, les grands ventilateurs brassaient toujours l'air épais de la salle, et les petits éventails multicolores des jurés s'agitaient tout dans le même sens. La plaidoire de mon avocat me semblait ne devoi jamais finir. À un moment donné, cependant, je l'ai écouté parce qu'il disait: "Il est vrai que j'ai tué."
    意味1 2、意味2 3、意味3 2、意味4 1、AI 1+1

    E Puis il a continué sur ce ton, disant "je" chawue fois qu'il parlait de moi. J'étais très étonné. Je me suis penché vers un gendarme et je lui ai demandé pourquoi. Il m'a dit de me taire et, après un moment, il a ajouté: "Tous les avocats font ça." 意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

    花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

  • カミュの「異邦人」で執筆脳を考える-不安障害3

    3 データベースの作成分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】
    表1 「異邦人」のデータベースのカラム
    文法1 態  能動、受動、使役。
    文法2 テンス、アスペクト 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 モダリティ 様相の表現。可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 抗力 物体の表面に働いてその運動を妨げる力、飛行方向と逆向きに働く力。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「不条理と現実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 秘めた積極性と抗力 エキスパートシステム 積極性とは、対象に対して進んで働きかける性質。それを内に秘めている。抗力とは、物体表面に働いてその運動を妨げる力、または飛行方向と逆向きに働く力。

    花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

  • カミュの「異邦人」で執筆脳を考える-不安障害2

    2 Lのストーリー 司法の精神医学

     「異邦人」(1942)は、アルベール・カミュ(1913-1960)が29歳のときに書いた小説である。17歳のときに肺結核の発作が起こる。肺結核のために大学教授資格試験も断念しており生涯の持病になる。主人公ムルソー(Meursault)は、1930年代の青年の喜びや苦しみを具現化した典型的な人物であり、人間とは何かという問題を分析するときの題材になる。   
     不条理は、筋道が通らないこと、道理に合わないことであり、道理は、正しい筋道、人の行うべき正しい道のことである。ムルソーは、不条理の光に照らしても、その光の及ばない固有の曖昧さを保っているとし、不条理に関しては、それに抗している。現実で具体的なもの、現在の欲望だけが重要であり、人間は無意味な存在で、無償であるという命題こそが出発点で積極性を内に秘めたムルソーがそこにいる。そこで「異邦人」の購読脳を「不条理と現実」にする。   
     キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えており、この作者とは、ムルソーが法廷で視線を交わした一人の新聞記者(J’ai rencontré le regard du journaliste à la veste grise)である。
     ママンの死(maman est morte)とかアラビア人を殺す(J’avais abattu L’Arabe comme je le projetais)といった生死に関わるような体験は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症にもつながる。日本成人病予防協会(2014)によると、発症する要因には過去に精神疾患があったり、トラウマ(心の傷)があったり、身体的な消耗とか物事を深刻に受け止める傾向が強いかどうかが重要因子になる。二つの事件は、記憶に残りトラウマとなって何度も思い出すが、ムルソーの症状は、特別強いわけではない。第二次世界大戦中のフランスやスペインそして北アフリカには、こうした精神疾患の持ち主が多くいた。
     不安障害は、ストレスが原因で不安や心配が生じそれが解消できないと心身に様々な症状が出る。長い準備期間の後、症状発現のきっかけになる結実因子があって神経症が発症する。ムルソーの場合、几帳面で積極性を秘めた性格(un caractère taciturne et renfermé)、生死にまつわる環境(circonstances entourant le décès)、それに適応する能力(capacité d’adaptation)から生まれる結実因子をどこかで調節している。それは、不条理に抗する力があるためである。世界が不条理であることを発見した。裁判長がフラン人民の名において広場で斬首刑を受けるといったにもかかわらず。(Le président m’a dit dans une forme bizarre que j’aurais la tete tranchée sur une place publique au nom du peuple francais.)
     そこで執筆脳は、「秘めた積極性と抗力」にする。ムルソーは、嘘をつくことを拒絶する。(refus de mentir)存在し感じることのできる真理が好きだからである。積極性を内に秘めていればこそできる技である。作品そのものは、不条理に関し、それに抗して作られている。白井(2016)の仮説、法廷でムルソーと視線を交わした新聞記者とは、カミュの分身であろう。そこで、シナジーのメタファーは、「カミュと不条理に対する抵抗」にする。キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えている。

    花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

  • カミュの「異邦人」で執筆脳を考える-不安障害1

    1 先行研究
     
     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ14

    3 まとめ

     武漢外語外事職業学院に赴任して、2年間で中国人の学生に日本語を教授した内容について話をした。クラスでの指導の外に、2009年11月に「中国から伝わった日本の言葉や文化-欧州との比較も混じえて」と題して、1時間余り講演をし、講演後、質疑応答で20分ぐらい学生と熱く議論を交すことができた。
     課外でも、武漢大学の大学院生の知人にプライベート・レッスンンの枠組で、中国語を教えてもらった。教材は、普通话-培训测试教程である。発音の矯正から始まって平易な中国語のテキストを中国語から日本語へ訳す練習をした。新聞の速読も試みているが、まだまだである。会話と合わせて今後の課題になる。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ13

    全体の訳文は、次のようになる。

    かつて、このような話を聞いたことがあります。葬式の日に、旦那さんを亡くした奥さんが、黒い喪服を着て、顔には微笑みを浮かべながら、弔問に訪れる客を前に接待をしていました。ひとりの外国人がこの光景を見ていて、思わず奇妙に思いました: まさか日本人は、悲しいと思わないわけではあるまい。これは、日本人の「謎の微笑み」に関する例の一つです。一般的に言って、日本人は皆、悲しみや怒りを堪えることができます。たとえ意気消沈しているとしても、微笑みを保つ必要があります。
     いずれにせよ、外国人は、表情がない日本人の心の世界を理解するのが実際に難しいと思っています。これは、日本人が通常目や動作によって言葉では表現の仕様がない心の世界を表すからです。よく「目は口ほどに物を言う」と言いますが、もしこの婦人の目に注意すれば、必ず内面は、悲しい気持ちで一杯であることに気づくでしょう。

     卒業して実務経験を積んでから、翻訳の仕事をしてみたいと相談されたことがある。その際、「まずチェッカーから始めるとよい」と言ってきた。チェッカーは、訳抜けがあるかとか専門用語が正しかどうかを確認する翻訳者から編集者へのつなぎ役であり、また、翻訳の仕事の流れや時間厳守であることが分かるからである。
     他の大学でも機会があれば、「みんなの日本語」から「日本語会話技巧編」及び「ビジネス日本語会話」への流れの中で、日本の語学、文学や文化について話をしていきたい。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ12

    それぞれの文の訳を考えていこう。

    1. 我曾听到这样一件事: 曾は「かつて」、听到は「聞いたことがある」、这样は「このような」になる。訳は、「かつて、このような話を聞いたことがあります」。

    2. 葬礼那天,失去丈夫的妻子穿着黑色的丧服, 脸上带着微笑接待着前来吊唁的客人: 葬礼那天は「葬式の日」、失去丈夫的妻子は「旦那さんを亡くした奥さん」、穿着は「着ている」、黑色的丧服は「黒い喪服」、脸上は「顔には」、带着微笑は「微笑みを浮かべて」、前来吊唁的客人は「弔問に訪れる客を前に」になる。訳は、「葬式の日に、旦那さんを亡くした奥さんが、黒い喪服を着て、顔には微笑みを浮かべながら、弔問に訪れる客を前に接待していました」。

    3. 一位外国人见到这样的情景,不禁觉得奇怪: 难道日本人不觉得悲伤吗?: 情景は「光景」、不禁は「思わず」、觉得奇怪は「不思議に思う」、难道は「まさか・・・ではあるまい」、不觉得悲伤は「悲しいと思わないわけではあるまい」になる。訳は、「ひとりの外国人がこの光景を見ていて、思わず奇妙に思いました: まさか日本人は、悲しいと思わないわけではあるまい」。

    4. 这是有关日本人“迷一样的微笑” 的例子之一: 有关は「~に関する」、迷一样的微笑は「謎の微笑み」になる。訳は、「これは、日本人の『謎の微笑み』に関する例の一つです」。

    5. 一般来说,日本人都会按捺着悲伤与愤怒,即使心灰意懒也要面带微笑: 一般来说は「一般的に言って」、按捺は「堪える」、悲伤与愤怒は「悲しみと怒り」、即使は「たとえ・・・でも」、心灰意懒は「意気消沈」、要面带微笑は「微笑みを保つ必要がある」になる。訳は、「一般的に言って、日本人は皆、悲しみや怒りを堪えことができます。たとえ意気消沈しているとしても、微笑みを保つ必要があります」。

    6. 不管怎么说,外国人认为要了解没有表情的日本人的内心世界实在是很难: 不管怎么说は「いずれにせよ」、认为は「と思う」、实在は「実際に」になる。訳は、「いずれにせよ、外国人は、表情がない日本人の心の世界を理解するのが実際に難しいと思っています」。

    7. 这是因为日本人通常是通过眼睛和动作来表现用语言无法表达的内心世界的: 因为は「・・・だから」、通过眼睛和动作は「目や動作によって」、用语言无法表达は「言葉では表現の仕様がない」になる。訳は、「これは、日本人が通常目や動作によって言葉では表現の仕様がない心の世界を表すからです」。

    8. 常言道眉目传情,如果注意这位妇女的眼睛,你一定会发现里面充满了悲伤之情: 眉目传情は「目の表情で感情を伝える、つまり、目は口ほどに物を言う」、如果は「もし・・・ならば」、这位妇女的眼睛は「この婦人の目」、一定は「必ず」、发现は「気づく」、悲伤之情は「悲しい気持で一杯」になる。訳は、よく「目は口ほどに物を言う」と言いますが、もしこの婦人の目に注意すれば、必ず内面は悲しい気持ちで一杯なことに気づくことでしょう」。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ11

    2.3 小論文からやさしい翻訳へ

     日语会话技巧篇のテキストでは、各章毎に場面が設定されていて、それに対応する対話文を使用しながら、練習をしていく。その中に日本の事情を扱った「小知識」とういうコラムがある。その内の一つを材料にして翻訳の話を進めていく。また、このテキストは、「です・ます調」を使用していることから、ここでもそれに準じようと思う。

     我曾听到这样一件事:葬礼那天,失去丈夫的妻子穿着黑色的丧服,脸上带着微笑接待着前来吊唁的客人。一位外国人见到这样的情景,不禁觉得奇怪: 难道日本人不觉得悲伤吗?这是有关日本人“迷一样的微笑”的例子之一。一般来说,日本人都会按捺着悲伤与愤怒,即使心灰意懒也要面带微笑。不管怎么说,外国人认为要了解没有表情的日本人的内心世界实在是很难。这是因为日本人通常是通过眼睛和动作来表现用语言无法表达的内心世界的。常言道眉目传情,如果注意这位妇女的眼睛,你一定会发现里面充满了悲伤之情 (「日语会话技巧篇」 P30より) 。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ10

    2.2 作文から小論文へ

     小論文とは、ある事柄に対して自分で判断をし、その判断がなぜ正しいのかについて根拠を挙げて述べる文章である。参考資料からの引用を踏まえて、間接的で客観的に自分で考えたことを書いていく。一方、作文は、自分の経験をもとに、感じたことや考えたことを主観的に書く文章である。わかりやすく、筋の通った説得力のある論文を書くには、構造をきちんと構築しなければならない。小論文の基本構造は、序論、本論、結論である。
     序論とは、論文全体の紹介である。この論文が何を意図していて、どういう過程を経て結論に至るのかを説明する。ここを読めば、筆者が何を考え、何を主張しているのかがわかるようにする。私の結論はこれである、こうした方法論を用いて、こうした結論に至った、と序論に結論を書くのもよい。読み手は、結論を念頭に置いて、書き手の議論を追いながら検証していく。この小論では、自分の主張に沿って次から次へと証拠を上げながら、自分の議論を進めていく。論文の主張に沿って議論を進め、極力余分な情報は入れないようにする。余計な情報を入れなければ入れないほど、引き締まった論文になる。結論は、裁判でいう判決部分である。この小論で証拠を挙げながら述べた事の良し悪しを「~であるからこう考えます」のように導き出す。
     注意事項としては、次のようなことを考慮すればよい。自分の意見と確認できる情報(参考資料、WEBサイトも含む)は、区別すること。確認できる情報には、引用符をつけることも大事である。感想は、書かないほうがよい。また、「これ」や「それ」といった指示代名詞が何を指すのかがはっきりとわかるように書くこと。できるだけ指示代名詞を使わないようにする。読み手がわからなければ、書き手の意図は伝わらない。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より