カテゴリー: 研究

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分3

    3 多変量の分析

     多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
     多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
     作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2隠喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
     まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
     最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。「城の崎にて」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
     なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分2

    2 芥川龍之介は日本を風刺する 

     「河童」の購読脳を「風刺と精神病」にする。結局、精神病院の院長は、狂人が早発性痴呆症患者であるという。しかし、セカンドオピニオン役の河童の国に生きる医者のチャックは、狂人ではなく、院長や来院者こそが早発性痴呆症患者であるとする。つまり、狂人は、本当のことがわかっていて、院長や聞き手の方がわかっていないとする。
     また、河童の国でも裁判官が失職すると発狂して精神病院に送られる。もし芥川が見舞いに行くとしたら、何をするのか。精神的な治療として聖書を進めたかもしれない。そこで、「河童」の執筆脳は、「機知と批判」にする。    
    購読脳の組み合せ「風刺と精神病」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として 「機知と批判」という執筆脳の組を考える。

     狂人は、事業に失敗した話になると、乱暴になる。汽車に乗ろうとして巡査に捕まり、病院に入れられた。病院でもどうやら日本の社会や人物の欠陥、罪悪のことを遠回しに批判していた。狂人の方が本当のことを理解している。シナジーのメタファーは、「芥川龍之介と逆転の論理」にする。 

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分1

    1 先行研究との関係

     これまでに芥川龍之介(1892-1927)の「河童」の執筆脳を「機知と批判」としてシナジーのメタファーを作成している。(花村2020) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で芥川龍之介の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。この小論ではシナジーのメタファーといえば「芥川龍之介と逆転の論理」を指す。  

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える8

    4 まとめ

     永井荷風の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「濹東奇譚」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    永井荷風 濹東奇譚(解説 秋庭太郎)新潮文庫 2010
    日本成人病予防協会 健康管理士一般指導員受験対策講座テキスト3 ヘルスケア出版 2014
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  241-249 
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019 276-283
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  

    結果  
     
     永井荷風は、この場面で自身の女性観を述べている。女性不信が見られるものの、お雪を愛しむ描写が秋の季節の色町に漂う詩赴を伝えているため、「儚い縁と季節の変り目」と「感覚と心情」という組が相互に作用する。  

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 わたくしがお雪の顔を見なくなる場面。
    2 この小論では、「濹東奇譚」の購読脳を「儚い縁と季節の変り目」と考えているため、意味3の思考の流れ、感覚表現に注目する。
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3感覚①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①感覚、②心情    
     
    テキスト共生の公式  

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「儚い縁と季節の変り目」を作る。
    ステップ2:心の繋がりは、リンクを張ることに通じるため「感覚と心情」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:①視覚+③哀+①感覚あり+①直示という解析の組を、①感覚+②心情という組と合わせる。
    B:②聴覚+③哀+①感覚あり+②隠喩という解析の組を、①感覚+②心情という組と合わせる。
    C:①視覚+①喜+①感覚あり+①直示という解析の組を、①感覚+②心情という組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①感覚あり+②隠喩という解析の組を、①感覚+②心情という組と合わせる。
    E:②聴覚+③哀+①感覚あり+①直示という解析の組を、①感覚+②心情という組と合わせる。  

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    A お雪はいつとはなく、わたくしの力に依って、境遇を一変させようと云う心を起している。懶婦か悍婦かになろうとしている。お雪の後半生をして懶婦たらしめず、悍婦たらしめず、真に幸福なる家庭の人たらしめるものは、失敗の経験にのみ富んでいるわたくしではなくして、前途に猶多くの歳月を持っている人でなければならない。然し今、これを説いてもお雪には決して分ろう筈がない。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

    B お雪はわたくしの二重人格の一面だけしか見ていない。わたくしはお雪の窺い知らぬ他の一面を曝露して、其非を知らしめるのは容易である。それを承知しながら、わたくしが猶躊躇しているのは心に忍びないところがあったからだ。これはわたくしを庇うのではない。お雪が自らその誤解を覚った時、甚しく失望し、甚しく悲しみはしまいかと云うことをわたくしは恐れて居たからである。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

    C お雪は倦みつかれたわたくしの心に、偶然過去の世のなつかしい幻影を彷彿たらしめたミューズである。久しく机の上に置いてあった一篇の草稿は若しお雪の心がわたくしの方に向けられなかったなら、――少くとも然う云う気がしなかったなら、既に裂き棄てられていたに違いない。お雪は今の世から見捨てられた一老作家の、他分それが最終の作とも思われる草稿を完成させた不可思議な激励者である。 
    意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

    D わたくしは其顔を見るたび心から礼を言いたいと思っている。其結果から論じたら、わたくしは処世の経験に乏しい彼の女を欺き、其身体のみならず其の真情をも弄んだ事になるであろう。わたくしは此の許され難い罪の詫びをしたいと心ではそう思いながら、そうする事の出来ない事情を悲しんでいる。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

    E その夜、お雪が窓口で言った言葉から、わたくしの切ない心持はいよいよ切なくなった。今はこれを避けるためには、重ねてその顔を見ないに越したことはない。まだ、今の中ならば、それほど深い悲しみと失望とをお雪の胸に与えずとも済むであろう。意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析  

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「濹東奇譚」のデータベースのカラム

    文法1 名詞の格 永井荷風の助詞の使い方を考える。
    文法2 態 能動、受動、使役。
    文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 感覚ありなし。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学の接点 受容と共生の共有点。購読脳「儚い縁と季節の変り目」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 感覚と心情 エキスパートシステム 感覚は、感覚器で刺激を受けた時の意識現象、心情は、心の中の思い。

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

  • 永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える2

    2 Lの分析

     永井荷風(1879-1959)は、「濹東綺譚」(1937)の中で薄幸な娼婦お雪と自身らしい作家とのやり取りについて見聞録をさらりと書いている。濹は、墨田川を表し、その東で聞く世にも珍しくて面白い話が描かれている。
     1916年、永井荷風は、慶應義塾の教授を退き、大正末期から昭和に入って銀座のカフェーに通った。秋庭(2010)によると、1936年濹東の玉の井の娼家に出入りするようになり、荷風日記にその様子を記し、日記を「濹東奇譚」と命名した。「濹東奇譚」は、作中の人物が活動する場所やその背景を人情味のある筆致で描いている。お雪が女房になりたがったため、荷風らしい作家は惜別を選ぶ。荷風の女性観もあろう。そこで、購読脳は、「儚い縁と季節の変り目」にする。 
     また、戦時中でも戦時臭さがないのは、風情が香気漂うぐらいで昭和の色町を風物詩として後世に伝えるためであった。そのため、執筆脳は、「感覚と心情」にする。この執筆脳を購読脳とマージした際のシナジーのメタファーは、「永井荷風と詩趣」である。

    花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より