投稿者: info@hana123.girly.jp

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ6

    2.2.3 メタ規則

     メタ規則は、基本的なID規則だけでは表現できない、ID規則からID規則への関係(受身、等値、スラッシュな)を扱う。その適用範囲は、語彙的ID規則に限られている。また、この規則は、回帰的には使われない。その数を有限とすることで文脈自由の性質を保つのである。*

    (12)主語-助動詞倒置メタ規則(Subject-Aux Inversion: SAI)
    V2[[SUBJ, -]] →W
    V2[[INV, +], [SUBJ, +]] →W, NP

    (12)のメタ規則は、(10)4のようなID規則から文カテゴリーSを平らなS構造へと展開する。Wは、ID規則の中の任意のカテゴリーを表す変数である。また、素性値指定[INV, +]は、[VFORM[FIN]](時制)を素性値指定[SUBJ, +]は、[N, -], [V, +], [BAR, 2]を含意している。*

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ5

    2.2.2 ID規則とLP規則

     親とそれが直接支配する娘とからのみ構成される部分木は、ID規則により写し出される。ID規則の担う情報は、親と娘の直接支配関係だけで、部分木の構成要素間の線的順序は、LP規則に委ねられる。こうした情報の二分化は、ドイツ語などに比べてより語順が自由な言語の場合*、従来のPSGでは、一度に一つの規則が述べられるだけで、句構造を全て列挙しなければならなくなるゆえに取られた措置である。* 

    (9)
    PSG A→BCD, B→BDC, B→CD, C→ABD, C→BAD, C→BDA
    GPSG ID規則 A→B, C, D, B→C, D, C→A, B, D LP規則 B<C, B<D

    ID規則は、語彙的と非語彙的に分かれる。前者には、H[n](nは整数)という語彙的主要部が導入され、SUBCATとBARの素性があるが、後者に下位カテゴリー化はない。

    (10)
    1 S→X2, H[SUBJ, -]
    2 NP→Det, N1
    3 N1→H[1]
    4 VP→H[2], NP[ACC]

    (10)の規則は、LP規則(Det<N, V[MC, +]<NP)およびFSD3[INV、-]を伴い(11)の木を認可する。

    (11)   S
        △
    NP[NOM]  VP
    △ △
    Det N1 V[2] NP[ACC]

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ4

     素性と素性値の対の集合からカテゴリーが構成される。* この対は、素性値指定と呼ばれる。(4)のNPを正確に記すと、それは、次のような素性値指定の集合と考えられる。但し、カテゴリーのNと素性のNを混同してはならない。

    (5)NP=[N, +], [V, -], [BAR, 2], [PLU, -], [PER, 3], [CASE, NOM]]

     カテゴリーには、主要なものと副次的なものとがある。前者は、N、V、A、Pおよびそれらの投射、後者は、Det(限定詞)、CONJ(接続詞)、COMP(補文標識)などで、これらは、BAR素性の値を欠いている。しかし、GPSGでは、BAR指定がなくてもSUBCATが指定されていれば、語彙カテゴリーのメンバーなのである。*

    (6)A=[N, +], [V, -]
    B=[N, +], [PLU, -]
    Unif(A, B) =extension(A) =extension(B)

     (6)は、Unif(A, B)がカテゴリーA、 Bの合成([N, +], [V, -], [PLU, -])を値とする関数で、それがAとBのそれぞれに含まれるすべての素性値指定を拡張したものになるということを表している。カテゴリーA、Bのユニフィケーションとは、A、Bの拡張であり、かつ最小のカテゴリーを求めることである。*
     素性間には、その一定の依存性を表したFCRがある。*

    (7)FCR1 [BAR, 0] =[N]&[V]&[SUBCAT]
    FCR2 [BAR, 1] ⊃~[SUBCAT]
    FCR3 [BAR, 2] ⊃~[SUBCAT]
    FCR4 [NULL, +] ⊃[SLASH]

     FCR1は、あるカテゴリーが[BAR, 0](語彙的主要部)となるには、N、V、SUBCATに関する素性の指定がある時に限るという意味である。FCR2とFCR3は、語彙的主要部の当社が下位カテゴリー化をせず、SUBCATの値を持つことはないといっている。また、FCR4により、NULLから足素性値SLASHが導かれる。NULLは、FFPの説明の際、再び取り上げる。
     素性と素性値が取る通常値を指定するためにFSDがある。*

    (8)FSD1 ~[NULL]
    FSD2 ~[NOM]
    FSD3 [INV, -]

     FSD1とFSD2は、素性[NULL]と素性値[NOM]が有標であることを、FSD3は、限られた場合に等値が起こることを表している。

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ3

     素性は、3種ある。部分木の親と語彙的主要部が等しい値を持つ主要部素性(N、V、PER、BAR、SLASH、INV、VFORM、SUBJなど)、部分木のどの子からも上昇可能な足素性(SLASH、WHなど)そして一つの接点に留まって他に伝わることのない素性(CASE、WHMOR、NULL)とである。CASE、WHMOR(Wh形態)、NULL(音韻的に空)など。*
     素性値には原始的な値とカテゴリー的な値がある。

    (3)PLU+, -
    PRE 1, 2, 3
    CASE NOM, ACC, FEN, DAT
    (4)S NP[[PER, 3], [PLU, -]]
    VP[AGR NP[[PER, 3], [PLU, -]]]

     (3)は、数、人称、格素性がそれぞれ取ることのできる原始的な素性を示し、(4)は、主語と動詞との一致を示す際に用いられるカテゴリー(名詞句で3人称単数)が素性値となる素性AGRを示している。CAPの説明の際に、一致については再び取り上げる。

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ2

    2 統語論

    2.1 PTQの統語規則

     PTQで採用されている17の規則の多くがカテゴリー文法*に基づく関数適応規則になっており、(1)のように規定されるカテゴリー間を連接していく。*

    (1) 1 e, t∋Cat、2 A, B∈Catならば、A/B, A//B∈Cat
    (2)S1 すべてのカテゴリーに対してBA⊆PA、S2 α∈PIV/IVまたはα∈PIV//IVでβ∈PIVならば、F1(α, β)∈PIV

    (1)では、eが個体を、tが真理値を表すカテゴリーで、A/B、A//BはともにBカテゴリーと結び付いてAカテゴリーを派生する。2種のスラッシュは、統語上の区別のために採用されている。(2)S1は、複合表現を派生する規則ではなく、任意のカテゴリーに関し、そのすべての基本表現がその句の集合に含まれることを説明している。(2)S2は、例えば、動詞句修飾の副詞langsam(IV//IV)がlaufenなどの自動詞(IV=t/e)と結び付いて新たな動詞句を派生する一方、lesenと結びついてversuchen zu lesenのような表現を派生するversuchenのカテゴリーがIV//IVとなることを示している。*
     PTQには話法の助動詞のカテゴリーはない。これは、内包論理の中で演算子として現れる。否定詞も基本表現には含まれず、時制演算子とともに主部と述部を結びつける統語規則の中で導入され、接続詞も文なり句なりを結ぶ統語規則として組み込まれている。さらに、限定詞に関する統語規則の一つとして普通名詞に不定冠詞を加えて名詞句を派生する規則がある。

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ1

    1 はじめに

     この論文は、モンタギュー文法(Montague Grammar: MG)*から一般化句構造文法(Generalized Phrase Structure Grammar: GPSG)*そして主要部駆動句構造文法(Head driven Phrase Structure Grammar:HPSG)への理論的な変遷を追いつつ、GPSGやHPSGが採用しているイディオムや修飾語の分析*に対し、モデル理論からの修正を試みる。
     最初に、それぞれの理論の統語規則を考察し、GPSGによるMGの意味論の修正を行い、イディオムに関する内包論理(Intensional Logic: IL)の有意表現に対する指示対象の割り当て方を検討する。
     続いて、GPSGの統語論と意味論を拡張することに成功したHPSGを使用して、イディオムの内部が修飾される例を分析する。形容詞の修飾は、統語的であるが、意味的には副詞のように動詞にかかる。これをHPSGによるイディオムの原理で説明する。また、イディオムが小説に入ったときの扱いについても合わせて検討する。

    花村(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」12

    計算表
    非線形性 3 3 合計6
    偏差 2 2 合計4
    偏差2 4 4 合計8
    初期値敏感性 4 2 合計6
    偏差 3 1 合計4
    偏差2 9 1 合計10
    AB偏差の積 6 2 合計8

    ◆相関係数は、次の公式で求めることができる。
    相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
    √(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和
    上記計算表を代入すると、
    相関係数 = 8/√8 x 10 = 8/√80 = 8/4√5 = 2/√5 = 0.89
    従って、かなり正の相関があるといえる。

    5 相関係数を言葉で表す

    数字の意味を言葉で確認しておく。

    0≦r≦0.2 : ほとんど相関がない
    0.2≦r≦0.4 : やや相関がある
    0.4≦r≦0.7 : かなり相関がある
    0.7≦r≦1 : 強い相関がある

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会論文集 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教育研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」11

    A 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    B 非線形性2なし、初期値敏感性2なし
    C 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    D 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    E 非線形性2なし、初期値敏感性2なし
    F 非線形性2なし、初期値敏感性1ある

    非線形性は、あるなしが3、3、一方、初期値敏感性は、あるなしが4、2になる。
    ◆非線形性と初期値敏感性それぞれの平均値を出す。
    非線形性の平均:(3 + 3)÷ 6 = 1
    初期値敏感性の平均:(4 + 2)÷ 6 = 1
    ◆非線形性と初期値敏感性それぞれの偏差を計算する。偏差=各データ-平均値
    非線形性の偏差:(3 – 1)、(3 – 1)= 2、2
    初期値敏感性の偏差:(4 – 1)、( 2- 1)= 3、1
    ◆非線形性と初期値敏感性をそれぞれ2乗する。
    非線形性の偏差2乗 = 4、4 
    初期値敏感性の偏差2乗 = 9、1
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差同士の積を計算する。
    (非線形性の偏差)x(初期値敏感性の偏差)= 6、2
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差を2乗したものを合計する。
    非線形性の偏差を2乗したものの合計 = 4 + 4 = 8
    初期値敏感性の偏差を2乗したものの合計 = 9 + 1 = 10
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差の合計を合計する。
    6 + 2 = 8

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」10

    4.2 小説の場面に適用する

     阿Qが刑場へ向かう場面でカオスの特性といえる非線形性と初期値敏感性が取れるかどうか見てみよう。それぞれ、1ある、2なしとする。

    刑場へ向かう場面
    A 阿 Q 被抬上了一辆没有篷的车,几个短衣人物也和他同坐在一处.这车立刻走动了,前面是一班背着洋炮的兵们和团丁,两旁是许多张着嘴的看客,后面怎样,阿 Q 没有见.但他突然觉到了:这岂不是去杀头么?
    非線形性1 初期値敏感性1
    B 他意思之间,似乎觉得人生天地间,大约本来有时也未免要杀头的.他不知道这是在游街,在示众他省悟了,这是绕到法场去的路. 非線形性2 初期値敏感性2
    C 却在路旁的人丛中发见了一个吴妈.很久违.阿 Q 忽然很羞愧自己没志气:竟没有唱几句戏.“好!!!”从人丛里,便发出豺狼的嗥叫一般的声音来. 非線形性1 初期値敏感性1
    D 阿 Q 于是再看那些喝采的人们. 四年之前,他曾在山脚下遇见一只饿狼. 非線形性1 初期値敏感性1
    E 可是永远记得那狼眼睛.又凶又怯,闪闪的像两颗鬼火,似乎远远的来穿透了他的皮肉.而这回他又看见从来没有见过的更可怕的眼睛了,又钝又锋利不但已经咀嚼了他的话,并且还要咀嚼他皮肉以外的东西,永是不近不远的跟他走. 非線形性2 初期値敏感性2
    F 这些眼睛们似乎连成一气,已经在那里咬他的灵魂他早就两眼发黑,耳杂里嗡的一声,觉得全身仿佛微尘似的迸散了. 非線形性2 初期値敏感性1

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より 

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」9

    4 統計処理-相関

    4.1 相関の作り方

     シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や、区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。(前野2012)
     相関とは原因から結果が生じ、互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要となる。

    (1) 共分散の公式
    共分散=[(xの各データ-xの平均値)x(yの各データ-yの平均値)]の和/データ数
       =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
       = xとyの偏差積の和/データ数

    正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

    (2) 相関係数(ピアソン)
    相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

    「阿Q正伝」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より