「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に7


5 ゴーディマの執筆脳

 表2で説明したように、意欲とは、人が何かの行動を起こすとき、欲求や衝動、願望などが動機づけとなって、意味や目的を持って行動しようとする意志の働きである。「ブルジョワ世界の終わりに」を書きながら、ゴーディマは、反アパルトヘイト運動が成立しない白人社会の終焉のために、白人が南アフリカの変革にどのように関与できるのか、問いかけていた。しかし、意欲を持って計画をしても、欲求が満たされないことがある。意欲、計画、欲求に関する脳の作用は、主に前頭葉が担っているため、前頭葉のあらましについて以下で説明する。
 前頭葉は、頭頂葉や側頭葉や後頭葉といった他の連合野と相互関係にあり、聴覚、体性感覚、視覚と結びつきがある。また、本能を司る視床下部とか情動や動機づけに対して判断を下す扁桃体と結びつきが強い。(Goldberg 2007:57)
前頭葉には、意志、計画、意欲、感情、言語の発音、運動の統合などの働きがある。また、思考や推測などの学習能力は、前頭連合野が支えており、五感から入った情報は、最終的に前頭連合野に送られて、何をするべきかが判断される。

 5.1 前頭連合野とやる気
 
 前頭連合野は、思考や推測などの学習能力を支えるとともに、人間らしく振舞うように指令を出す。学習能力を向上させるには、動機づけや学習意欲を保ちながら、やる気を引き起こすことが大切である。このやる気の調節に前頭葉が関与している。
 学習能力は、神経伝達物質ドーパミンの分泌を高めることにより向上する。喜びや達成感、褒められたり愛されたりしたときの精神的な報酬が大脳辺縁系にある側座核を刺激することにより、ドーパミンの分泌が高まる。片野(2017)によると、ドーパミンは、脳幹の中脳にある黒質緻密部と腹側被蓋野という神経核から分泌され、視床下部や大脳皮質など脳全体に届けられる。黒質緻密部は、運動の調節と関わりがある。適度な運動をすると気分が爽快になり頑張ろうと思うのは、運動によりドーパミンが高まるからである。
 ドーパミンは、目標を立てたときと目標を達成したときに分泌が高まる。「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、当時の南アフリカで男を望むとしたら、グレアムが良い。語り手の私は、18歳で結婚して子供を作り、その後マックスと離婚した。マックスが刑務所にいたとき、グレアムは嘆願書を提出する手助けをしてくれた。彼の妻は髄膜炎で亡くなった。政治告発されている人たちを弁護していて、身に降りかかるものがあってもひるまずに活動している人たちである。ヨーロッパの黒い森に行って二人で楽しく過ごした。結婚を望めばそうなるだろう。グレアムは、諦めず、やり遂げて、約束を守る。磁石に吸い寄せられるように引き付けられることに気がつく、そういう関係である。 
 目標の設定は、適度に難しく、頑張れば達成できるぐらいがよい。自分の部屋で文字にして目視できるようにすると、ドーパミンの補給にもなる。頑張って目標に到達したら、自分であれ家族や仕事仲間であれ褒めてあげると、次の目標に向けてまた頑張ろうという気になる。それが学習能力向上のサイクルとなる。例えば、学習目標設定→ドーパミン分泌→モチベーションUP→勉強する→学習目標達成→ドーパミン分泌→次の目標のためにモチベーションUP→学習目標設定。(片野2017:18)
 「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、マックスの死が重要な問題になる。マックスは大学をやめて仕事についた。しかし、長続きせず、大学時代に共産党の細胞メンバーだったため、COD(民主主義者会議)に入りアフリカ人の政治運動と直接協力しながら活動した。その後、ンマガンドラというアフリカ社会主義運動のグループの師匠格となり、民衆(黒人のこと)に近づいていく。アフリカ社会主義方法論の原稿は押収されることはなかった。離婚後、私の前から姿を消してはまた現れ、白人の革命グループと地下で付き合いがあるという噂も聞かされたが、マックスは、まんまと死ぬことに成功した。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より


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