3 中国人に母国語(日本語)を教授する-母国語教育から試みるテキスト共生
花村(2017)では、人文科学から共生を目指すためのトレーニングを紹介している。そこでは、組のアンサンブルという社会科学で分析の基礎をなす調整の方法が鍵になる。無論、平時で取り組む日本語教育は、人文学院や外国語学院の学生が対象となるため、人文と社会であれ、人文と理系であれ、とりわけ共生を目指したカリキュラムではない。しかし、組のアンサンブルを提唱するための問題提起はできる。
人物評価をする際に、社会科学や理系は、縦の専門と横のシナジー・共生が調節できるようにLの研究フォーマットを採用している。社会系と理系の組み合わせは実務にもつながることから、それぞれが横も調節できるようにマクロの評価項目を設けている。しかし、議論の対象は、人文の人たちにこうしたLの評価がそもそもないことである。
原因は何であろうか。人文科学の伝統の技は、文学、言語、思想そして文化などである。また、ことばごとに分かれていて専攻科目もたくさんある。人文の関係者が平時に取り組む教授法は、共通の実務である。教授法の周りに自分の専門分野があり、副専攻として専門以外にも通じたことばがある。しかし、実績を見るといずれも人文科学のもので、横に目安はない。では、どうすれば横に目安を置いて、評価を出すことができるのであろうか。
ひとつは、人文の人も横に実務を作るとよい。つまり、テキスト共生をスローガンにし、同じ日本語の単語でも文理で系列を行き来すると、意味内容に違いが生まれる。母国語の受容の新たな段階がここにある。
以下に紹介するシナジーのメタファーの研究は、Lの研究フォーマットを使用するため、人文→理系→人文→理系という具合に系列を入れ子にしてストーリーを作成していく。そこで、母国語のみならず外国語、特に対照言語でも場の理論が応用できるように、文理の意味内容の調節ができるようになるには、文系であるが機械翻訳に従事するなど日頃からのトレーニングが必要になる。それができれば、シナジーのメタファーが外国語教育にも応用できるとする仮説は、正しくなるであろう。(花村 2018)
花村嘉英(2018)「ヴァイスゲルバーから日本語教育を再考する」より