Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定からの分析1


1 自作の入門について

 1989年から1990年代前半にかけて、ドイツのチュービンゲン大学に留学し、意味論を研究した。当時の私の研究テーマは、論理文法で有名なモンターギュ文法を使用したテキスト分析であった。モンターギュ文法は、認知科学の枠組みで言語理論の研究者が、生成文法と組み合わせて構文と意味を解析するために取り組んでいた。
 研究の題材は、トーマス・マンの「魔の山」であり、作品を読みながらドイツ語の構文と意味の解析について分析し、トーマス・マンのイロニーを説明した。しかし、ここで思うことがあった。トーマス・マンのイロニーが理解できるのは、ドイツ語の習得が進んだからであろうか。
 作家が作品を執筆しているときには、当然、何れかの脳の活動がある。トーマス・マンの場合もそれが何かであり、読んで思うイロニーもそこに近づいていくため、内容が理解できると思うようになった。読んで思うトーマス・マンのイロニーは、人工知能でいうファジィ推論に近いことを「魔の山」のいくつかの場面を例にして説明することができた。
 ドイツから帰国後、英日、独日の技術文の翻訳作業に10年余り従事した。文系から寄せて理系のアイデアを調節する機会を得るためである。こうして、2005年、「計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」という研究本を出版することができた。

花村嘉英(2017)「Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定による分析」より


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