2.2.2 ID規則とLP規則
親とそれが直接支配する娘とからのみ構成される部分木は、ID規則により写し出される。ID規則の担う情報は、親と娘の直接支配関係だけで、部分木の構成要素間の線的順序は、LP規則に委ねられる。こうした情報の二分化は、ドイツ語などに比べてより語順が自由な言語の場合*、従来のPSGでは、一度に一つの規則が述べられるだけで、句構造を全て列挙しなければならなくなるゆえに取られた措置である。*
(9)
PSG A→BCD, B→BDC, B→CD, C→ABD, C→BAD, C→BDA
GPSG ID規則 A→B, C, D, B→C, D, C→A, B, D LP規則 B<C, B<D
ID規則は、語彙的と非語彙的に分かれる。前者には、H[n](nは整数)という語彙的主要部が導入され、SUBCATとBARの素性があるが、後者に下位カテゴリー化はない。
(10)
1 S→X2, H[SUBJ, -]
2 NP→Det, N1
3 N1→H[1]
4 VP→H[2], NP[ACC]
(10)の規則は、LP規則(Det<N, V[MC, +]<NP)およびFSD3[INV、-]を伴い(11)の木を認可する。
(11) S
△
NP[NOM] VP
△ △
Det N1 V[2] NP[ACC]
花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より