3 カオスと記憶
3.1 脳のモデル
脳の活動については動的な記憶を取り上げる。例えば、長期記憶は、頭で覚える陳述記憶と体で覚える非陳述記憶に分けられ、陳述記憶はエピソード記憶と意味記憶に分けられる。エピソード記憶は、未来も含めた個人の経験にまつわる出来事と関連し(例、(8)、(9)、(10)、(12)、(13))、意味記憶は一般的な知識(例、(24))と関連する。また、非陳述記憶のうち手続き記憶は、自転車の運転とかタイピングと関連する。動的な記憶の公式として、エピソード記憶とカオスのリンクは有名である。
花村(2015)によると、記憶の分類には、長期記憶にプライミング記憶を加えるものがある。プライミング記憶は、先行情報が後から与えられた情報に影響を及ぼす効果を持っている。しかし、無意識によりパターン化されるため、勘違いの原因になることもある(例、(6))。エピソード記憶と短期記憶は、個人の意識が存在するレベルの記憶であり、意味記憶やプライミング記憶及び手続き記憶は、個人の意識が介在しない潜在記憶である。但し、エピソード記憶と意味記憶は、経験と時間によってどちらにも変わる可能性がある。
[記憶の樹形図]
記憶→短期記憶→ワーキングメモリー
記憶→長期記憶→陳述記憶→エピソード記憶 OR →意味記憶
記憶→長期記憶→非陳述記憶→プライミング記憶 OR →手続き記憶
記憶は、階層をなしているともいわれる。最下層が手続き記憶、その上にプライミング記憶、続いて意味記憶、短期記憶、エピソード記憶の順になるという。
この階層は、生物の進化の過程と関連があり、下等な動物ほど下層の記憶が発達していて、高等な動物ほど上層の記憶が発達している。これは、人の成長の過程にも当てはまる。子供から大人になるにつれて、最初に手続き記憶が発達して、成長するに従って記憶の階層を昇順していく。例えば、3歳ぐらいの記憶がないという現象(幼児期健忘)は、エピソード記憶の発達が遅れているためである。10歳ぐらいまでは、意味記憶が発達していて、その後、エピソード記憶が優勢になる。逆に年をとると忘れっぽくなるが、これは、エピソード記憶が衰えるためである(例、痴呆症)。
しかし、記憶が階層をなしているということは、それぞれの記憶のメカニズムに違いがあることになる。一般的に、エピソード記憶や意味記憶は海馬と関わっていて、海馬は五感から情報を統合し、経験という記憶(エピソード記憶)を作る。記憶は一ヶ月ほど海馬に留まり、その後、側頭葉に移って保存される。
一方、短期記憶とプライミング記憶は大脳皮質で作られ、手続き記憶は線条体(大脳皮質の裏にある基底核)や小脳で作られる。
花村嘉英(2015)「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む」より