2.2 同期と非同期
上述の阿Qの言動の中で特に注目したいのは、同期に絡むところである。ここでは、同期・非同期の関係を基にして阿Qの言動を考えていく。同期を辞書で見ると、次のような意味がある。
① 機械の作動を時間的に連関させること。シンクロナイズさせること。例えば、ストロボをシャッターにシンクロナイズさせるなど。(IT用語辞典)
② 二つ以上の周期運動の周期が一致すること。または一定の整数比になること。(同上)
③ プログラムの処理の場合、同期は、処理してから結果が出るのを待って、次の処理を実行する。非同期は、処理の後で結果を待たずに次の処理を実行する。(同上)
ここでは同期の意味を①と定義する。例えば、卓球のボールを認識する際、まず連続した物体の存在認識が必要になる。神経細胞は、卓球のボールの領域とそれ以外の空間から入力情報を受け取り、それぞれが同期と非同期の関係になる。卓球のボールは動くので、同期する場所は常に変化していく。そのため、同期と非同期は、速やかに処理する必要がる。これを容易にする仕組みがカオスである。(津田一郎:2002)
表3の(22)を見ると、阿Qの神経細胞が未荘村の人々の目とそれ以外の空間から情報を受け取り、それぞれが同期と非同期の関係になる。村人の目はどんどん移るため、同期する場所は常に変化していく。(同様の例は、(37)、(39)、(40)、(41)にも見られる。)(40)はエピソード記憶の問題である。エピソード記憶とは、長期記憶のうち頭で覚える記憶の一つで、経験を伴うことに特徴がある。(37)は(22)と同様に、阿Qの神経細胞が引き回しを見に来た民衆の目の領域とその他の空間から入力情報を受け取り、それぞれを同期と非同期の関係にする。幌なし車に乗った阿Qは動くため、同期の場所は常に動いていく。そのため、同期と非同期の速やかな処理が求められる。
花村嘉英(2015)「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む」より