魯迅とカオス 狂人日記 9


3 場面の認知プロセス

3.1 食人の非線形性

 上述の狂人の言動を認知プロセスに当てはめながら、それぞれの場面の認知プロセスを確認していこう。プロセスの要素は、以下の【】書きのものを採用する。

【脳の活動①】非線形性の認知プロセス(妄想気分)
認知能力のプロセス
①知覚と注意
【知覚】狂人の視神経が赵貴翁の目つきに反応する。他の7、8人、道行く人、子供たちも赵貴翁と同じ目つきであることがわかる。
【注意】グループ化と比較。
認知能力のプロセス
②記憶と学習
【外部からの情報】彼らの暗号を読み取る。
【スキーマ】話や笑いが毒や刀で、歯は人を食う道具である。
【既存の知識】歴史書にも食人の二字が書いてある。
【学習】にやけて笑いながら、怪しげな目つきで睨む人は、俺を食おうと思っている。
認知能力のプロセス
③計画と推論
【計画】狂気から覚醒する。
【問題分析】中国では儒教による封建主義が時代の思潮であった。しかし、留学先の日本で近代ヨーロッパの精神に触れて狂気に陥った。
【問題解決】食人行為は歴史からも見て取れるが、今でもずっと続いている。食人行為を捨てれば、楽しいはずである。
【推論】人を食べて自分を調節している人間は実在する。こうした人間が一線を越えて真の人間になるための振舞いは、無秩序で予測がつかない。

この認知プロセスのモデルから狂人の脳の活動に見られる非線形性が見て取れる。
食人の言動は、一見人を食べるための秩序に則っているように見える。道行く人や子供も道で会った女も陳老五も兄や小作人も皆、赵貴翁と同じ目つきで俺を見る(例、表2の(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(8))。ゾッとする。俺を食うかもしれない。しかし、一線を越えて本当の人になるための振舞いは、秩序を持って予測することが難しい。そこには順序とか確かな筋立てのような直線的なルールがあるわけではない。従って、食人の振舞いは、カオスの非線形性に通じる特徴になる。

花村嘉英(2015)「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む」より


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