3.2 不安障害
8年間の結婚生活は、イレーネにとって幸福の振り子が快適に揺れる時間で、子供を授かり我家も得た。しかし、彼女の不安が心の小部屋に入口を見出そうと、小さな思い出を内気なハンマーで叩く。3日間イレーネは家から出なかった。8年間の結婚生活より長い時間である。(Drei Tage hatte sie nun das Haus nicht verlassen. Diese drei Tage im Kerker der Zimmer schienen ihr laenger als die acht Jahre ihrer Ehre.)3日目の晩、彼女は夢を見た。どこへ行っても恐喝女が彼女を待ち伏せし、家に戻れば夫がナイフを振り上げる。助けを求める。夫がベッドの縁に座って彼女を病人のように見る。叫んだからである。強い不安感に襲われているため不安障害の症状が出ている。
イレーネは、どうやら自分の感情に捕らわれて不安を生み出す性格のようである。次の日、昼食中に女中が手紙を持って来た。(Am nechsten Tage, als sie gemeinsam beim Mittagessen sassen – brachte das Dienstmaedchen einen Brief. )封を開けると、持参者にすぐ100クローネを渡すように3行で書いてある。日付も署名もない。Der brief war kurz. Drei Zeilen: “Bitte, geben Sie dem Ueberbringer dieses sofort hundert Kronen.” Keine Unterschrift, kein Datum.)封筒に紙幣を折り畳んで玄関で待機している配達人に渡す。躊躇することなく催眠術にかかったように。恐ろしい不快感、見たこともない夫の視線が気になった。心の奥が震えているのを感じる。これもまた強い不安感に襲われている不安障害の症状である。幸運なことに昼食は、すぐに終わった。また、手紙を暖炉の中に投げ入れ、気持ちは落ち着いた。一応心のコントロールはできている。
次の日にまたメモ書きが届く。今度は200クローネの請求である。次第に額が増えていく。イレーネは、不安から動悸がし手足が疲れて眠れない。やはり不安障害の症状である。夫は、彼女を病人のように扱うようになった。
おばさんが数日前に少年に色とりどりの子馬を贈った。年下の少女は羨ましい。次の日突然馬は消え、偶然に細かく切られてストーブの中で見つかった。勿論少女に嫌疑がかかる。最初は否定していた彼女も兄弟を傷
花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より