5.1 前頭連合野とやる気
前頭連合野は、思考や推測などの学習能力を支えるとともに、人間らしく振舞うように指令を出す。学習能力を向上させるには、動機づけや学習意欲を保ちながら、やる気を引き起こすことが大切である。このやる気の調節に前頭葉が関与している。
学習能力は、神経伝達物質ドーパミンの分泌を高めることにより向上する。喜びや達成感、褒められたり愛されたりしたときの精神的な報酬が大脳辺縁系にある側座核を刺激することにより、ドーパミンの分泌が高まる。片野(2017)によると、ドーパミンは、脳幹の中脳にある黒質緻密部と腹側被蓋野という神経核から分泌され、視床下部や大脳皮質など脳全体に届けられる。黒質緻密部は、運動の調節と関わりがある。適度な運動をすると気分が爽快になり頑張ろうと思うのは、運動によりドーパミンが高まるからである。
ドーパミンは、目標を立てたときと目標を達成したときに分泌が高まる。「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、当時の南アフリカで男を望むとしたら、グレアムが良い。語り手の私は、18歳で結婚して子供を作り、その後マックスと離婚した。マックスが刑務所にいたとき、グレアムは嘆願書を提出する手助けをしてくれた。彼の妻は髄膜炎で亡くなった。政治告発されている人たちを弁護していて、身に降りかかるものがあってもひるまずに活動している人たちである。ヨーロッパの黒い森に行って二人で楽しく過ごした。結婚を望めばそうなるだろう。グレアムは、諦めず、やり遂げて、約束を守る。磁石に吸い寄せられるように引き付けられることに気がつく、そういう関係である。
目標の設定は、適度に難しく、頑張れば達成できるぐらいがよい。自分の部屋で文字にして目視できるようにすると、ドーパミンの補給にもなる。頑張って目標に到達したら、自分であれ家族や仕事仲間であれ褒めてあげると、次の目標に向けてまた頑張ろうという気になる。それが学習能力向上のサイクルとなる。例えば、学習目標設定→ドーパミン分泌→モチベーションUP→勉強する→学習目標達成→ドーパミン分泌→次の目標のためにモチベーションUP→学習目標設定。(片野2017:18)
「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、マックスの死が重要な問題になる。マックスは大学をやめて仕事についた。しかし、長続きせず、大学時代に共産党の細胞メンバーだったため、COD(民主主義者会議)に入りアフリカ人の政治運動と直接協力しながら活動した。その後、ンマガンドラというアフリカ社会主義運動のグループの師匠格となり、民衆(黒人のこと)に近づいていく。アフリカ社会主義方法論の原稿は押収されることはなかった。離婚後、私の前から姿を消してはまた現れ、白人の革命グループと地下で付き合いがあるという噂も聞かされたが、マックスは、まんまと死ぬことに成功した。
花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より