人文科学から始める技術文の翻訳5


2.3 否定構文

 否定構文は日本語と英語で形が異なる。例えば、日本語の否定詞(非、否、不、無)は述語の後ろに来るが、英語は、主語であれ目的語であれ、否定詞が名詞の前に来ることが多い。(5) 訳出も交えて、否定詞の文中での位置取りについて見ていこう。
 まず、名詞の前に来る場合を考える。(22)と(24)の場合、主語と目的語の前に否定詞が付いている。これは完全否定と理解する。

(21)アナログ・ネットワーク全体に対して、同じサービスをすることはできない。
(22)No equivalent service is possible over analog networks.(技術英語構文辞典)

(23)ワイヤーフレームには表面に関する情報が含まれていない。
(24)Wire frames contain no information about the surface.

 可算名詞の前に来るfewと不可算名詞の前に来るlittleについても同じことが言える。

(25)初めての仕事でコピーを正確に書けるライターは殆どいない。
(26)Few writers are capable of writing copy correctly the first time.

(27)それはほとんど光を出さない。
(28)It emits little light.

なお、(26)と(28)の修飾語がvery fewとvery littleになると、「限りなく殆ど皆無に近い」という意味になる。
 上述の例が文章全体を否定するのに対して、部分否定の構文もある。例えば、not allやnot everyはものに対して用いられ、not alwaysはときやことに対して用いられる。(5)

(30)すべてのコンピュータが接続を必要とするわけではない。
(31)Not all computers require connections.
(32)すべてのコマンドをテストしたわけではない。
(33)Not every command was tested.
(34)英語のライティングではこのことが常に正しいわけではない。
(35)In English writing, this is not always true.

花村嘉英(2018)「人文科学から始める技術文の翻訳」より

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