2 「円恩寺」のLのストーリー
高行健も自身で作家について考え、私もシナジーのメタファーで作家の執筆脳について考えている。平たくいえば、問題は、作家の頭の使い様である。
飯塚(2005)によると、高行健の小説を書くための基本姿勢は、1非ストーリー性、2人称の変化、3主観の表出である。
1 非ストーリー性とは、ストーリーを語る意図がなく、所謂プロットがない。つまり、主題を中心とする登場人物の性格や心理描写が限られている。小説という言語の芸術は、現実の模写ではなく、言語の実現を意味する。
2 人称の変化とは、人物形象の描写に頼ることなく、異なる人称を使って、読者の受け取りに角度を与えている。角度は転換することができ、角度と距離を変えて観察し体験することができる。
3 主観の表出は、環境に対する純然たる客観描写を排除しているため、内心の感情を外界へと投射する。
花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より