購読脳の出力「認知症と適用能力」が執筆脳と想定している「記憶と連合野のバランス」と組になれば、シナジーのメタファーが成立するため、以下では脳のバランスの取り方について考える。
脳のバランスの取り方は、文体と同様に十人十色であり、生活や仕事上の工夫なども脳のトレーニングになる。連合野をつなぐ神経細胞のネットワークの舵取りは前頭葉がしており、井上靖個人のバランスの取り方に近い一般の脳の活動が見えてくれば、「井上靖と連合野のバランス」というシナジーのメタファーを想定することができる。例えば、ジャンル違いによる執筆脳の違いを分析するのも面白い。想定しているシナジーのメタファーの分析がさらに細かくなるためである。
ゴーディマの中でも述べたように、男性と女性で前頭葉の舵取りには違いがあり、適応型の意思決定については、井上靖(男性)の場合、状況依存型を好む。さらに状況依存型において、男性は左前頭前野皮質が活動し、言語情報を処理する場合、左半球の前部と後部がともに活動する。また、男性は片側の大脳半球の前後をつなぐ白質繊維束が大きく、片側の大脳半球の前後の機能的統合が顕著である。(表3参照)
作者は、人間関係など熟知していることを前頭葉(思考、計画、判断)、側頭葉(聴覚)、頭頂葉(触覚)、後頭葉(視覚)などの連合野で調節しながら、家族人としてこの作品を執筆している。Goldberg (2007)によると、慣例化とか熟知性については、左前頭葉の活動が活発であり、未経験の課題、つまり新奇性は、脳の右半球と関係があるため、右前頭葉が活動する。マクロのバランスを整えるために2x2のルールがある。シナジーのメタファーの鍵となるLのイメージが組の集合体からなるため、ここでは二分率による問題解決を試みる。
「わが母の記」の執筆脳は、家族崩壊のリスクを回避するという優先事項に基づいた適応型の意思決定である。作者は男性であるため状況依存型を好み、左前頭前野と共に言語情報を処理する作者の左半球が前後に活動している。作成したデータベースから作品の記憶を種別で見ると、長期記憶が多く、意思決定は優先事項に基づいた適応型であるため、作業記憶との関連も見られる。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より