心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える5


表2 具体度

言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを伝導の書にわたしは感じた。→大きい満足2、弱い満足1 綾子2、前川1

この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

1 最初は男女の満足度に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、綾子 1.5、前川 1.0になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう満足度の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値、満足度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
綾子 1.5、前川 1.0、よってt値=0.5。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.2にする。ここでは5%以上のため、帰無仮説を採択し、有意な差がないとする。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」


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