3 ゴーディマの“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)(1966)
ナディン・ゴーディマ(1923-2014)は、南アフリカの白人社会の崩壊を目指す反アパルトヘイト運動に白人がどのように関与できるのかを自問し、世の中の流れに逆流する自国の現状に危機感を抱いて、何らかの形で革命に関わりたいという意欲を持っていた。こうした作家の脳の活動は、南アフリカの将来を見据えたリスク回避といえるため、特に、「意欲と適応能力」に焦点を当ててゴーディマの執筆脳について考察していく。
ゴーディマが“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)を書いた1960年代前半の南アフリカは、ヘンドリック・フェルブールト首相(在任1958-1966)に象徴されるアパルトヘイト全盛の時代で、いくら適応能力があっても政治や法律によりそれを発揮できなかった。そのため、心の働きでは意欲が強くなり、それに伴う計画や判断を含めた脳の活動としては、前頭葉が注目に値する。
前頭葉は、頭頂葉や側頭葉といった他の連合野と相互関係にあり、また、本能を司る視床下部とか情動や動機づけの反応に対して判断を下す扁桃体と結びつきが強い。(Goldberg 2007:57)
“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)は、マックスの死を知った私の一日というストーリーで、そこには小学生の息子ボボ、マックスの両親や妹夫妻、弁護士のグレアム、87歳になる認知症の自分の祖母、運搬請負人のルークがいる。それぞれの場面で彼らがマックスのことを回想しながら、当時の南アフリカの革命に関わる一人の白人の意欲を問題にしている。
アフリカ民族会議やそこから分裂した過激派のパンアフリカ会議と並ぶ白人による反アパルトヘイト運動、アフリカ抵抗運動も、当時、盛んにサボタージュを繰り返した。1964年7月の全国一斉捜査で活動家が逮捕され、所持していた文書や供述からアフリカ抵抗運動の活動が明るみになった。(福島 1994:187)転職を繰り返すマックスは、こうした白人のサボタージュ運動に属していて、運動初期の段階で逮捕され裁判にかけられた。
重大な生活上の変化やストレスに満ちた生活が原因となる適応障害は、個人にとって重大な出来事(就学、就職、転居、結婚、離婚、失業、重病など)が症状に先んじて原因となる。(日本成人病予防協会(テキスト3)2014:55)マックスの場合、結婚離婚、就学就職、いずれもうまくいかない。地下組織の人たちと付き合いがあったからである。結局、死を選ぶため、社会に適応する能力がなかったことになる。
どうにもならない精神状態を説明するときに、ゴーディマは、メディカル表現を用いて問題解決を試みる。心を頑なにして精神を狭める精神的な動脈硬化は、白人居住区が汚染地区であるため、南アフリカの白人たち全員がその対象になる。当時の南アフリカの政治と法律に縛られた無限状態を表す「空間と時間」という購読脳の出力は、情報の認知を通して、新たな国作りのための意欲と精神的な動脈硬化を予防する適応能力という執筆脳の組と相互に作用する。
花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より