2.3 動的な考察
文法の視点で言語を研究する場合、言語共同体を通して世界を言語化する過程が重要になる。ここで言語共同体とは、ドイツ語とか日本語の母国語話者のことであり、母国語とは、言語共同体を通して世界を言語化する手段である。(Weisgerber 1963、94)言語の世界像は、言語を捉えるための考察法であり、静的な言語内容に対して動的な様式といえる文法の考察方法を指す。また、文法に即した語論は、意味に即した考察の継続である。
親族関係を系図で見ると、例えば、ドイツ語とラテン語には違いがある。(池上1980、211)ドイツ語では、Vatter(父)、Mutter(母)、Sohn(息子)、Tochter(娘)がドイツ人の家系図の中で重要な規定となる。Großvater(祖父)、Großmutter(祖母)、Onkel(叔父)、Tante(叔母)、Neffe(甥)などは、自然体系の中で特別な関係というわけではない。ラテン語の親族用語、pater(父)、mater(母)、filius(息子)、filia(娘)、avus(叔父)、patruus(父方のおじ)、amita(父方のおば)などは、ドイツ語の思考体系と完全に一致しない。ローマ人にとってドイツ語のOnkelやVetter(いとこ)は、存在しなかったからである。これが精神的な中間世界を置く理由である。
外界の存在と個人の意識間にある中間世界には、境界や分節条件に違いがある。また、個人の意識が音声形式に変わり、語音と語義の間に言語的な母国語の中間世界を想定し、言語の世界像を見出すことに意義を認めた。(池上1980、220)
音と意味が表裏一体をなす記号としての言語は、同音異義語や機能の面で説明が必要である。性違いで意味が異なる場合、言語史的な見解が可能であり、中性のMesser(ナイフ)と男性のMesser(測量者、測定器)は、別の語彙として区別し、別の道を進んできたとする。
機能については、一つの動詞がどういう結合価を取るのかを検討すればよい。(Engel/Schumacher 1978、203)
(1) Dein Verhalten interessiert mich.
(2) Es interessiert mich, das neue Stück zu sehen.
(3) Es interessiert mich, daß du in die Stadt gezogen bist.
(4) Ich interessiere mich dafür , diese Kirche zu besichtigen.
(5) Der Gast interessiert sich dafür , was im Theater gespielt wird.
(1)は主語と目的語をとり、受動態も作ることができる。(2)はzu不定詞句をとり、(3)はdaß文をとる。(4)はdafürの後に必ず相関の説明が来て、(5)はそれが疑問文になることをいっている。なお、結合価については、動詞だけではなく形容詞や名詞にもその機能が備わっている。
歴史や文化を含む相互作用に基づいた生活についても言語学が研究する一領域とする。つまり、ヴァイスゲルバーは、外界の存在を言語化するプロセスが実践されると、母国語の世界像が作られるとし、これを個人レベルで捉えるべきではなく、言語、技術、法律、芸術、宗教などが関連して作用すると考えた。そのため、言語の妥当性(sprachliche Geltung)という概念が重要なものとなった。(Weisgerber 1963、127)母国語における語彙や構文の妥当性は、言語共同体が客観的に処理することばによる捉え方を継承し、その営みの中で効果を発揮する。
花村嘉英(2018)「ヴァイスゲルバーから日本語教育を再考する」より