2.2 静的な考察
音であれ意味であれ、双方が表裏をなしているという前提から、単体的な考察は認めていない。音に関する考察は、母国語の音の記号を意識することから始まる。語彙に関して目録を作成し、音素に従い特徴を付けていく。例えば、語と語義を担う音声表現としての語体との混同は避けなければならない。音の研究は、個々の語の境界を作る際に意味の基準の助けが必要となる。(Weisgerber 1963、45)
意味に関する考察では、意味に即したことばの中間層が説明されている。そこでは、ことばと事物の研究とか記号の研究が伝統的な共通認識である。特に語場は、1930年代に活躍したトリーアからの影響を受けており、意味に即した語論の主な研究領域であって、語群が制限された構成要素間で意味内容の秩序を担う。例えば、gutの価値評価は、4段階、5段階、6段階でそれぞれの意味内容が微妙に異なる。(Weisgerber 1963、70)
つまり、一見同じ単語でも、sehr gut(優)、gut(良)、genügend(可)、ungenügend(不可)の4段階では良、sehr gut(秀)、gut(優)、genügend(良)、mangelhaft(可)、ungenügend(不可)の5段階では優を表している。つまり、4段階と5段階で意味内容が異なることは明らかである。また、言語記号と意味内容は、音と意味の総体という捉え方で、Wort(語)= Laut(音声形式)x Inhalt(意味内容)という構造式が基本であり、gutの場合も然りである。
花村嘉英(2018)「ヴァイスゲルバーから日本語教育を再考する」より