日本経済入門の講義11


D 基幹産業の再編成
① 自動車産業
 この数年、世界的な自動車産業の再編成が積極的に展開されてきた。1998年から1999年にかけて、独フォルクスワーゲンの英ロールスロイス買収、独ダイムラーベンツと米クライスラーとの合併、さらに、米フォードの瑞典ボルボの買収などが有名である。
 こうした中、日本の自動車メーカーも外資との提携を進める。1993年3月、日産自動車と仏ルノーが資本提携をし、1999年10月三菱自動車が瑞典ボルボとの株式持合に合意した。また、同年12月、富士の提携を結び、が米GMと資本提携や技術協力を結んだ。
 この数年の自動車産業の国際的な再編成の動きは、どうして強まったのであろうか。第一は、自動車産業が成熟期を迎えているからである。例えば、日本の場合、自動車の一年間の需要は、約1000万台であるのに対して、最大生産能力が1500万台見込めるため、メーカーの数が多すぎるのである。
 第二は、自動車市場のグローバル化への対応である。先進国市場での新規需要増があまり期待できないのに対して、中国やインド、ブラジルなどが経済的発展期を迎え、新しい市場として登場してきた。そこで、欧米のメーカーは日本のメーカーと資本提携をすることが大きな魅力になっている。
 第三は、自動車メーカーの環境戦略上に再編する必要がある。地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量には、日本の場合、自動車部門が2割近くを占めている。生き残り競争に勝つためには、低公害車、無公害車の開発は急務な課題であるが、巨額の研究費や優秀な技術陣が必要であり、合併や買収に踏み切る理由にもなっている。

② 石油産業
 19907年代に入ってからの石油産業の国際的な再編成が進んだ背景には、石油産業を巡る構造変化があったからである。二度の石油ショックを経験した産油国により市場支配が終わり、原油価格の低位安定が予測される中で、徹底的な経営の合理化が図られない限り、生き残れないという状況ができた。自動車道用、需要に対する過剰供給の問題が再編成の引き金となった。
 特定石油製品輸入暫定法(特石法)が1986年来、ガソリンの輸入を規制してきたが、1996年に廃止になり、割安のガソリンが入り、さらに、1998年から説府式スタンド規制がなくなり、石油元売り各社は、リストラや物流提携強化などの措置をとって対応した。
 1994年からは、国内石油大手の統合が進んでいく。日石三菱とコスモ石油、ジャパンエナジーと昭和シェル石油、出光興産、エッソモービルの4大グループによる新たな競争時代を迎えることになった。

③ 鉄鋼業
 鉄鋼業界の再編成については、世界第一位の新日本製鉄の積極的な動きが目立った。2000年夏に世界第二位の韓国の浦項総合製鉄と技術提携したのに続き、2001年2月に、世界第五位の仏ユジノールと鉄鋼事業での包括提携に踏み切った。
 一方、ライバルのNKKと川崎製鉄が、2001年4月、経営統合し、2002年9月に共同持株会社JFEグループを設立して、新日鉄に対抗した。これに対し、新日鉄は、住友金属、神戸製鋼と包括提携を結び、体制を整える動きをとった。
 鉄鋼業界の再編成の理由は、大幅な生産過剰にある上、鉄鋼の最大の顧客である自動車業界が生産拠点の国際的展開と国境を超えた再編を加速しているため、自動車大手のグルーバルな調達の技術と、地域双方で対応できるかどうかが各社の生き残りの条件になってきているためである。

花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より


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