文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロの分析方法である。基本のパターンは、縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、各場面をLに読みながらデータベースを作成して全体を組の集合体にし、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探していく。
執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より