トーマス・マンの「魔の山」の多変量解析-クラスタ分析と主成分3


③  イロニーの原理
(a) 定義:トーマス・マンは、彼の散文の条件として常に現実から距離を置 く。一つには、現実をできるだけ正確に考察するために、また一つには、それを批判するために、つまり、イロニー的に。…この批判的な距離は、イロニー的な距離になりうるだろう。実際に、批判的な表現における簡潔さには、余すところなく正確に規定された概念言語の要求に対して、言語媒体そのものの特徴から反対の行動をとるある種の制限が設けられている。(Baumgart 1964) 一方、ファジイ理論は、システムが複雑になればなるほど、より正確な記述ができなくなることを主張する。(Yager et al 1987)

(b) 特徴:双方に共通の特徴として、主観性を想定することができる。周知の通り、ファジィ理論は、科学の中に客観性ではなくて、主観性を導入する。(菅野 1991) 一方、トーマス・マンと ハンス・カストルプが歩んでいく道を基にしたイロニーの原理は、自己を乗り越える原理である。(Frommer 1966) つまり、ファジィ理論における主観性は、個人的 な主観であり、Thomas Mannの主観性は、超個人的な主観(主体性)となる。しかし、何れにせよ双方共に個人による規定や決定が問題になっており、両者をまとめて広い意味で主観と呼ぶことができる。
(C) 語の選択: トーマス・マンが使用するイロニー的な語彙、例えば、形容 詞とか副詞は、意図的な不正確さを通して言葉が持っている本来の意味 合いをはずす。(Baumgart 1964)一方、ファジイ集合によって表現 される概念は、「背の大きい人達」や「多かれ少なかれ」といった曖昧 な概念であり、外延的でも内包的でもない中間的なものになる。(菅野 1991)

花村嘉英(2019)「トーマス・マンの「魔の山」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より


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