3 問題解決に向けてできること
こうしたL字の文献処理ができるようになるとよいことがある。テキスト分析を例にして説明していこう。テキスト分析といった場合、文系でも理系でも受容を思い浮かべる。文系は文献学をベースに解析をして作品のイメージを作り、理系は計算、技術、実験をベースに作品のモデルを作っていく。ここからが問題である。文から理への横の調節をAとBから異質のCという流れとしよう。その場合、Aは人文科学、Bは認知科学そしてCは脳科学になる。学会や研究会などで専門家の話を聞いていると、人文の人はAとBの塊を作り、理系の人はBとCの塊を作る。なぜか対峙してしまう。これが問題である。
人文から理系に向けた研究方法を何か工夫して、何とか異質のCに辿りつくようにしたい。どうすればよいのだろうか。私の場合、作品を解析したイメージの中にいずれかの組を作る。例えば、鴎外の歴史小説を分析して内から外への思考と外から内への思考という組を考える。これはAである。それから人間の信号の伝わり具合を想定して、この組み合わせに適した脳科学のポイントを探る。これはBである。そして最後に、動物一般が生得的に持っている本能のことをいう情動に近づいて行く。
情動の起因には諸説があるが、その一例として内的要因(創発)と外的要因(誘発)が挙げられる。情動とは、例えば、喜怒哀楽に関する瞬時の思いである。また一方に、人間特有の感情といわれる人を敬う継続的な思いがある。鴎外の歴史小説を情動や尊敬の念といった感情を通して考察しながら、L字の調節によるシナジーのメタファーを考えてみよう。
花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より