3.2 動詞枠付け言語と主題優勢言語
移動の動詞に関する手段や様式を動詞だけで表す言語と、動詞と接辞または動詞と不変化詞で表す言語とがある。前者は動詞枠付け言語と呼ばれ、後者は衛星枠付け言語と呼ばれる。
例えば、日本語は「出る」「上る」が単独で動詞として使用されるため、動詞枠付け言語となり、ドイツ語は“ausgehen”“aufgehen”のようにausやaufといった分離の接辞を伴う分離動詞が使われるため、衛星枠付け言語になる。中国語もまた、「出去」「上出」となり、衛星枠付け言語に入る。
文における主題が統語的に決まっていて、特に主語を示す必要がない言語を主題優勢言語といい、日本語、中国語、韓国語のような東アジア諸語がこれにあたる。日本語は係助詞「は」が主題であることを示し、中国語は語順によりそれが示される。
(8)船来了。(船は来た。)(は格)(金田一 1997)
(9)来船了。(船が来た。)(が格)
中国語では特に存在や出現を表す場合に、動詞+主語という語順になる。つまり、日本語や韓国語と同様に、中国語にも「は」(テーマ:主題)と「が」(レーマ:述題)の区別がある。
(10)立春(春が来た)。
(11)下雨(雨が降る)。
韓国語では初めて話題になる名詞の場合に助詞の이/가を付け、すでに話題になっている名詞には助詞の은/는を付けて主語を表す。日本語では「これは何ですか。」が韓国語では「これがなんですか。」になり、答えはともに「これは~です。」になる。
(12)이것이뭔엇입니까?(これは何ですか。)
(13)그것은콩극스입니다.(それはコングクスです。)
なお、主題を表す助詞と述題を表す助詞を区別する言語は世界的に少ないようで、他にはビルマ語があげられる。
花村嘉英(2018)「日本語から見た東アジアと欧米諸語の比較-言語類型論における普遍性を中心に」より