3.4.2 ヴォイス
動詞のヴォイスとは、「読む」という能動態に対して、「読まれる」という受動態や「読ませる」という使役態を指していう。
日本語の受動態は、動詞+「れる」/「られる」の形になる。主格が非情物の場合は、受動態をあまり使用しない。また、自動詞も受動態を作る。
(32)雨に降られて散々だった。
(33)知らない人に叱られてムッとした。
但し、「叱られて」の場合は主格が動作を直接受けるが、「降られて」の場合は純粋な受身というよりも、間接的に迷惑を受ける被害の意味になる。こうした例が多い。
中国語の被動文(受身)も被動を表す意味があり、介詞(例、被)とそれに続く動詞とから作られる。また、被動介詞が省略されるケースもある。
(34)脑门儿被蚊子叮肿了。(おでこが蚊に刺されて腫れた。)(山本哲也 2002)
(35)の主語は、動作主の行為の直接的な対象であり、直接被害を受けている。また、述語動詞は他動詞である。
一方、間接的な被害を表す文の場合は、述語動詞が自動詞で、主語は動作主の行為を直接受けないが、結果的に何らかの被害を受けることになる。
(36)母亲给孩子哭得毫无办法。(母は子供に泣かれて全くお手上げだ。)
なお、ここでは被動介詞が「给」である。また、中国語では主語が被害を受けることを表すために被動文を使用するが、日本語に比べてその数は少ないと言う。
表6
中国語の受身文 被動介詞と動詞で構成され、被害が直接か間接かによって述語動詞が異なる。前者は他動詞、後者は自動詞。受身文の絶対数は比較的少ない。
日本語の受身文 動詞+「れる」/「られる」の形になる。主格が非情物の場合は、受動態をあまり使わない。自動詞も受動態を作る。
英語の受身文 Be動詞+動詞の過去分詞で構成される。受動文の絶対数は、この中で最も多い。
花村嘉英(2018)「日本語から見た東アジアと欧米諸語の比較-言語類型論における普遍性を中心に」より