3.3 日本語の名詞の格
日本語の名詞句や動詞句は、従属部表示されるとした。つまり、動詞句の場合は、動詞と格の関係が名詞と格助詞によって示されることになる。主語であれば主格、目的語であれば対格や与格がそれに当たる。(金田一 1997)
主格の「が」は、「誕生日が来る」「犬が吠える」「雷が鳴る」というように、動詞ではなく格助詞「が」のおかげで名詞が主格と見なされる。上述のように、これは、日本語が属性表示言語である一例といえる。こうした言い方は、韓国語やビルマ語に見られるという。
「が」と同様に主格を表すものとして、係助詞の「は」が知られている。「は」は、一般的にその時その時の話題や主題を表すところに特徴がある。これは読みやすい文章を書く際の目安となる主題(テーマ)と述題(レーマ)の関係を作る効果がある。
初めて名詞が出てきたときは「が」を使って新情報の内容を提示し、二度目は既知の内容が話題になるという意味で「は」を使う。新情報と旧情報とかテーマとレーマの公式は、「-が-、-は-」という文形を作り、まず新情報を提示して場面を設定してから、題目をあげて話をすると理解されやすい。こうした「が」は時々強く発音される。このような「が」は、総記の「が」と呼ばれる。主題(テーマ)と述題(レーマ)の関係を押さえながら読み書きをすると、要約文を作る際にも役に立つ。
「を」は対格を表す助詞で、膠着語の朝鮮語にも見られる。中国語は孤立語であり、対格が動詞の後に来るという語順からそれを認識する。但し、現在は、前置詞の「把」が日本語の「を」に相当している。
(14)写字(字を書く)
(15)把字写完了(字を書いてしまう)
韓国語は을/를が目的格の助詞になり、日本語の「を」に相当する。手段や目的を表す場合、日本語では「に」を使用するが、韓国語では을/를を使用する。
(16)무엇을합니까?(何をしますか。)
(17)쇼핑을갑니다.(ショッピングに行きます。)
日本語の所有格「の」は、所有の意味の他に主格の「が」とか対格の「を」の代わりにも使われる。
(18)妻の料理(妻がする料理)
(19)マンションの購入(マンションを購入すること)
日本語では所有格の「の」を使う場合でも、中国語では日本語の「の」に当たる「的」は使わないことがある。(例、我家人/我母亲)
花村嘉英(2018)「日本語から見た東アジアと欧米諸語の比較-言語類型論における普遍性を中心に」より