3 「Angst」のLのストーリー
3.1 ストレス反応の経路
不安と恐怖は、危険を察知して身を守るための防御反応として備わっている感情である。しかし、不安は、内側から沸き起こり、恐怖は、事故や災害、人間関係など外的な原因により生まれる。1910年にウィーンで書かれたツヴァイクの「Angst」は、主人公のイレーネ夫人にまつわるストレスの問題が鍵になる。
片野(2021)によると、ストレスを構成する要素は、ストレッサー、認知的評価、その対処、ストレス反応である。成年期にあるイレーネ夫人が受けたストレッサーは、社会的なものである。人間関係のトラブル、多忙、いじめ、リストラ、家族の死、挫折、失敗、離婚、結婚などがその例になる。周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対抗してコーピングで刺激を処理する。コーピングには問題焦点型と情動焦点型がある。
ストレスが有害であると認知した時、一般的に体には不安や怒り、恐怖、焦りといった情動変化がみられる。続いて、動機や冷や汗、鳥肌、震えといった身体変化が現れ、仕事のミスや事故の増加など行動に変化がでる。
表1 ストレスの認知的評価
認知的評価 説明
一次反応 ストレッサーを受けた時にそれが自分にとって有害か無害かの判断をする。例えば、無関係は無害、不可能は有害になる。
二次反応 ストレスフルと評価されたストレッサーに対し、その状況を処理して切り抜けるために何をすべきか検討する段階である。
ストレス反応 情動、身体、行動に変化がある。
コーピング 周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対して意識的に行動すること。問題焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけ原因を解決し除去する一方、情動焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけずそれに対する考え方や感情を変えようとする。
花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より