5.2 前頭葉と作業記憶
前頭葉は、刻々と変化する決定、選択、切り替えのプロセスを経て記憶を制御している。この種の記憶は作業記憶と呼ばれていて、特に、思い出すという行為は、この作業記憶と前頭葉との関係である。前頭葉は、どの情報がどこに蓄えられているのかを知っており、情報の貯蔵場所を突き止めると、脳のその部分に連絡をとって、該当する記憶(記憶痕跡)を含んだ回路を活性化するため、当の記憶を思い出すことができる。Goldberg(2007)によると、作業記憶は、優先事項に基づいた適応型の意思決定と関係がある。一方、真実、つまり唯一の答えを探す決定論型の意思決定がある。
ゴーディマとマックスの意欲は、適応型の意思決定(反アパルトヘイト)であるため、そこに解決策を求めていく。適応型の意思決定では、状況依存型と状況独立型がうまくバランスを取れると良いが、一概にそうはいかいない。集団で見た場合、女性は状況独立型を、男性は状況依存形を好む。また、比較的変化のない状況では、独立型の方が懸命であろうし、不安定な状況では、依存型の方が好ましい。
前頭葉は、そもそも性差があり、右前頭葉が左よりも突き出ているのは男性の方で、女性はそれほどでもない。状況依存型の意思決定は、男性の場合、左前頭前野皮質が活動し、女性の場合、左右両側の後部皮質(頭頂葉)が特に活動している。また、状況独立型の意思決定は、男性の場合、右前頭前野皮質が活動し、女性の場合、左右両側の前頭前野皮質が特に活動する。
男性と女性の大脳皮質の機能的なパターンの相違として、男性の脳では左右の違いが女性よりも明白であり、女性の脳では前部と後部の違いが男性よりも著しい。言語情報を処理する場合、男性は、左半球の前部と後部がともに活動するのに対し、女性は、左右の大脳半球の前頭葉がともに活動している。(Goldberg 2007:127)
花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より