横光利一の「蝿」で執筆脳を考える5


【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ 馬車が滑落する場面

A 馭者台では鞭が動き停った。農婦は田舎紳士の帯の鎖に眼をつけた。「もう幾時ですかいな。十二時は過ぎましたかいな。街へ着くと正午過ぎになりますやろな。」
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

B 馭者台では喇叭が鳴らなくなった。そうして腹掛けの饅頭を、今や尽ことごとく胃の腑の中へ落し込んでしまった馭者は、一層猫背を張らせて居眠り出した。その居眠りは、馬車の上から、かの眼の大きな蠅が押し黙った数段の梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして馬車が高い崖路の高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。
意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

C しかし、乗客の中で、その馭者の居眠りを知っていた者は、僅かにただ蠅一疋であるらしかった。蠅は車体の屋根の上から、馭者の垂れ下った半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中に留とまって汗を舐めた。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

D 馬車は崖の頂上へさしかかった。馬は前方に現れた眼匿しの中の路に従って柔順に曲り始めた。しかし、そのとき、彼は自分の胴と、車体の幅とを考えることは出来なかった。一つの車輪が路から外れた。突然、馬は車体に引かれて突き立った。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

E 瞬間、蠅は飛び上った。と、車体と一緒に崖の下へ墜落して行く放埒な馬の腹が眼についた。そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬と板片との塊りが、沈黙したまま動かなかった。が、眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1+2

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より


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