森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析3


2.2 シナジーのトレーニング
 
 人文科学の人でもできるトレーニングとして組のアンサンブルを考える。シナジーという研究の対象は、元々が組からなっているためである。例えば、手のひらを閉じたり開いたりするのも、肘を伸ばしたり畳んだりするのも運動でいうシナジーである。Lのモデルができるだけ多くの組を処理できるように、シナジーの研究のトレーニングとして三つのステップを考える。

A シナジーの組

 例えば、社会とシステム、法律と技術(特許)、経営工学、金融工学、ソフトウェアとハードウェア、心理と医学、法律と医学、文化と栄養そして文学と計算などがこのグループに入る。これらの中から何れかの組を選択して、テーマを作っていく。もちろんこれらの組について複数対応できることが望ましい。

B テーマの組

 選んだ組からLに通じるテーマを作るには、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照の言語文学と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目も必要になる。ここでミクロとは主の専門の研究を指し、マクロとはどの系列に属していても該当するように、地球規模とフォーマットのシフトを評価の項目とする。シナジーの研究は、バランスを維持することが大切である。
 「トーマス・マンとファジィ」は、ドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は、中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。計算と文学のモデルは、こうした調整が土台になっている。

テーマの組 文系と理系
小説を読みながら、文理のモデルを調節する。
テーマの組 人文科学と社会科学
文献とデータの処理を調節する。
テーマの組 語学文学(対照と比較)
対照言語と比較言語の枠組みで小説を分析する。
テーマの組 東洋と西洋
東洋と西洋の発想の違いを考える。例えば、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
テーマの組 基礎と応用
まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
テーマの組 伝統の技と先端の技
人文科学の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。
テーマの組 ミクロとマクロ
ミクロは主の専門の調節、マクロは複数の副専攻を交えた調整。縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。

C 分析の組

 さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、理論と実践、一般と特殊、言語情報と非言語情報、強と弱など。

分析の組 ボトムアップとトップダウン
専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
分析の組 理論と実践
すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、翻訳のトレーニングが実践になる。
分析の組 一般と特殊
小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
分析の組 言語情報と非言語情報
前者は言語により伝達される情報、後者は感情や思考や判断といった非言語情報である。
分析の組 強と弱
組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。

 このようにして組のアンサンブルを調節しながら、トーマス・マンの「魔の山」や魯迅の「狂人日記」及び「阿Q正伝」についてLのストーリーを作成した。

花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

シナジーのメタファー4


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です